表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
糸と針と、わたしたち。  作者: 南蛇井
高校2年生

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

83/150

第83話「好き、だけじゃ足りない日も」

冬の風が、部室の窓を小さく揺らした。


「次、何作る?」

さゆりがそう言ったのは、昨日の放課後だった。

文化祭が終わり、コンクールも一区切り。春までの空白を埋めるために、わたしたちはまた“何か”を作る必要がある。


「いとは?」

その問いが向けられた瞬間、口をついて出るはずの言葉が、不思議なほど出てこなかった。


何が作りたい?

何のために?


……今まで、そんなこと、考えずにやってきたのに。



夜、自室の机の上にスマホを並べて、過去の写真をめくった。

コースター、ポーチ、タペストリー。文化祭での展示写真。入選したコンクールの刺繍。


手は動いていた。でも、心は……?


「“好きだから”じゃ、もう進めない気がするんだよなぁ」


小さくつぶやいて、ノートを開いた。


1ページ目の上に、「なぜ、作るのか」と書く。

ペン先が止まる。


しばらくじっと見つめたまま、わたしは何も書けなかった。


書きたいのに、言葉がこぼれてこない。


まるで、透明な糸を手繰ろうとして、指先が空をすべる感覚。


机の上の蛍光灯が静かに唸る音だけが、部屋の中に残っていた。



翌朝の部室は、ほんの少しだけ冷たい空気に包まれていた。

カーテン越しの朝日が、机に斜めの影を落としている。


誰もまだ来ていない。針山と糸巻きが昨日のまま置いてある。


わたしは、椅子に座って糸を取ると、いつものように針に通す。


何を作るかは、まだ決まってない。

でも、何かを縫いたくて、指が自然に動いていた。


「問い続けるしか、ないんだよね……」


小さくつぶやいた言葉は、誰にも聞かれないまま、光の中に溶けていった。


そしてわたしは、静かに、でも確かに針を持ち直す。

心の中のまだ言葉にならない想いを、もう一度形にするために。


たとえ“好き”だけじゃ足りない日でも。

わたしは、作り続けたい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ