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糸と針と、わたしたち。  作者: 南蛇井
高校2年生

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第79話「届かなかった場所へ」

――舞台:部室、校内掲示板、図書館前


昼休みのチャイムが鳴る前、いとはひとり、廊下の掲示板の前に立っていた。

A4の紙に印刷された「全国高校手芸コンテスト結果」の一覧。目を凝らすまでもなく、自分たちの学校の名前は──なかった。


「……ダメだったんだ」


声にならないつぶやきが、誰にも聞かれないように、掲示板のガラスに吸い込まれていった。


「いと! 結果、見た?」


昼休み、さゆりが部室に駆け込んでくる。だが、いとはもう椅子に座っていて、机に頬杖をついていた。目の焦点が定まらないまま、ただ、静かだった。


さゆりは空気を読むのが得意だ。だからこそ、笑顔を作るタイミングがわかる。


「……でも、入選はしてたよ。すごいことだよ、それって!」


いつものさゆりの明るさ。けれど、今日のいとはその光を受け止めきれない。


「うん……そうだね。でも」


そこで、ことばが詰まる。自分でも理由がうまく説明できない。

ただ、悔しさだけが正直だった。


「“届かなかったんじゃなくて、届く途中”なんだよ」

さゆりがそっと言ったその言葉に、いとは思わず、心を閉じるようにつぶやいた。


「……それって、慰めにしか聞こえないよ」


さゆりの表情が少しだけ、揺れた。けれど、それ以上何も言わず、ただ横に座ってくれた。


放課後、ふたりは図書館の前のベンチに座っていた。西日に照らされた中庭では、吹奏楽部が小さな練習をしている。


風が少しだけ、肌寒い。けれど、黙っていても、さゆりはそばにいた。


「さゆり」


「ん?」


「……悔しいって気持ち、ちゃんと感じてもいいんだよね」


さゆりは一瞬、目を丸くして、それからゆっくり、深くうなずいた。


「うん。感じていいし、言っていい。だって、それだけ大事にしてたってことだもん」


そのとき、いとは少しだけ笑った。泣きそうな顔のままで。


ベンチの上、ふたりの指先が、ほんの少しだけ触れた。


針を持っていない時間にも、心は少しずつ、繋がっていく。

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