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糸と針と、わたしたち。  作者: 南蛇井
高校2年生

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第78話「引き継がれる風景」

文化祭の熱が、少しずつ空気に溶けていく頃。


 夕方、展示の片付けを終えた手芸部の面々が、部室に戻ってきた。


 段ボールには、布や糸、体験用の道具、完成した即興タペストリーが丁寧にしまわれている。みんなの頬には心地よい疲労と、充足感の色がにじんでいた。


「先輩たちって、いつもこんなふうに準備してたんですね」

 あおばがぽつりとつぶやいた。


「また展示、やりたいですね」

 その言葉に、他の1年生も「やりたい!」「今度はもっと刺してみたいな」と口々に笑う。


 いとは、ふと部室の片隅に目を向ける。そこには、歴代の部員が残してきた刺繍の小作品たちが、きちんと額に収められて並んでいた。


 少し色あせた布に、懐かしさと時間の重みが静かに宿っている。


「……こうして、少しずつ“風景”って、受け継がれていくんだね」


 いとの言葉に、あおばが少し考えてから、小さな声で言った。


「……でも、今の風景も、ちゃんと残せてたらいいな」


 その“今”には、初めて展示を一緒に作った記憶、失敗やすれ違い、そこから生まれた理解、そして、つながった手の感触が詰まっている。


 ――部室を後にして、渡り廊下を歩く。


 夕暮れが静かに射していた。窓の外には茜色の空が広がり、廊下の床には長くのびた影が交錯する。


 先輩たちと、後輩たち。


 背の高さも、歩幅も、少しずつ違うけれど、不思議と並んで歩いているその姿が、一枚の風景画のように見えた。


 いとは歩きながら、胸の中でそっとつぶやく。


 ――きっと、大丈夫。

 この糸は、ちゃんとつながってる。

 わたしたちが紡いだ日々も、これからの誰かのために、きっと。


 そして、その“これから”のなかに、自分たちもまだ、ちゃんといる。


 未来に続く影の先、柔らかい光が待っていた。



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