第73話「結果より、きみに言いたい」
季節は、夏の終わり。
全国コンテストの結果通知を待つ期間は、思ったよりも静かで、思ったよりも長く感じられた。
「ねえ、まだ来てないよね……?」
昼休みの図書室。参考書の影から顔をのぞかせた律が、希音にそっと聞く。
「うん。まだ」
希音は本のページをめくりながら、さらりと返す。
律は落ち着かない様子で自分の指をいじる。「もう、何もできないってわかってるんだけど……でも、気になってしょうがなくて」
希音は少しだけ微笑んだ。
「わたしは逆に、終わったらすぐ気持ち切り替えるタイプかも」
「切り替えられるの、すごいよ……」
律がうなだれる。
「でもね」
希音はページから目を離さず、ゆっくりと言った。
「あの時間があっただけで、もう十分な気がする。すごく好きな時間だったし」
その言葉に、律の指の動きが止まる。
十分。それは、心のどこかで自分も思っていたこと。でも同時に、心の奥にもうひとつの本音があった。
「……わたしは、やっぱり“よかったよ”って言われたい」
ぽつんと、律がつぶやく。
「誰かに、ちゃんと見てもらえてたらって、思っちゃうんだ」
静かな図書室に、ふたりの声だけがそっと落ちた。
放課後。
律と希音は校舎の屋上にいた。夏の名残を吹き抜ける風が、制服の裾を揺らしている。
沈黙の中、希音がポツリと言った。
「わたしね……律に“ありがとう”って言いたいんだ」
隣で、律が目を瞬く。
「律がいたから、あの合宿も、タペストリーも、ちゃんと完成した気がしてる。気づいたら、律の目線で考えること、増えてたし」
律は思わず笑ってしまった。
「……それ、私も思ってた。希音がいたから、わたし、自分の図案を信じて縫えた」
二人は、視線を合わせることなく、でもしっかりと同じ風景を見ていた。
“結果”よりも、“評価”よりも――
その時間に一緒にいた“誰か”に伝えたい想いが、胸を満たしていく。
「ありがとう」
同時に、ふたりの口から、同じ言葉がこぼれた。
言葉は風に乗って、空にとけていった。
――それで、もう十分かもしれない。




