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糸と針と、わたしたち。  作者: 南蛇井
高校2年生

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66/150

第66話「ちゃんと届いていた」

 展示会、最終日。

 白いテントの下、風に揺れる作品解説のパネル。午後のやわらかな光が、刺繍の布面に斑に射し込んでいた。


 ふと、律が新聞を広げて声をあげた。


「……載ってる、私たち」


 地域新聞の文化欄に、小さく写真と記事があった。

 『高校手芸部、地域展示で“心を縫う”。言葉があったからこそ想像が広がった』という見出し。


 記事には、展示会を訪れた町の人々の感想も添えられていた。


「色づかいが優しくて、昔の実家のことを思い出しました」

「針仕事って、なんでこんなにあたたかいんだろう」

「言葉を読んで、やっと見えてきた“物語”がありました」


 いとは新聞をじっと見つめて、ほんの少し唇を噛む。


 そこに、郵便物の束が届いた。

 差出人は――地元の保育園、町内会、図書館。中身はすべて、展示会への感想だった。


「えっ……こんなに……?」

 希音が目を丸くする。


 子どもの拙い文字で「お花がかわいかった」「ふうけいのぬいかたがふしぎだった」

 年配の女性からの手紙には「孫と見に行って、また手を動かしてみたくなりました」と綴られていた。


 静かな部室。

 壁にはまだ、展示から戻ってきた作品たちが掛けられている。


 


 その空間の隅、窓際に座っているのは、まどかだった。


 笑っていた。穏やかに、静かに。

 涙は、もうどこにもなかった。


 


「なんか……」

 さゆりがつぶやく。


「“言葉にする”って、思ってたより怖くなかったね。いや……怖かったけど、ちゃんと“返ってくる”んだね」


「うん……」

 律も、そっと頷く。


「伝えようって、思ったから……受け取ってくれたんだよね」


 希音は手紙を抱きしめるようにしながら、小さくつぶやいた。


「嬉しい……」


 


 その空気の中で、いとがふと窓の方に視線をやった。

 柔らかな陽射しの中、静かに頷くまどかの姿があった。


 いとは目を伏せて、そっと言葉を落とした。


 


「……ちゃんと、届いてたんだ。

 わたしたちの、色も……針も……言葉も」


 


 誰も、何も言わなかった。

 けれど、その静けさは、確かな“決意”で満ちていた。


 


 窓の外では、夏の気配が少しずつ近づいていた。

 全国コンテスト本番に向けて――物語は、次の一針を待っている。

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