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糸と針と、わたしたち。  作者: 南蛇井
高校2年生

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第59話「違いは、どこから来るの?」

月曜日の昼休み。校内放送が終わった直後、部室の扉ががらりと開いた。


「来たよ、これ」


 さゆりが手にしていたのは、一通の封筒。

 部員たちの視線が自然と集まる。そこに貼られた「全国高校生手芸コンテスト事務局」の文字に、全員が息を飲んだ。


 いとの手が、小さく震える。

 封を開け、紙を取り出す。目を走らせて、やがて目を見開いた。


「……一次、通ったって!」


「やったぁー!!」

 希音が勢いよく机をバンッと叩いた。


 律も小さく目を見開き、ふっと口角を上げる。

 さゆりは安堵の息をつきながら「みんなのおかげだね」と柔らかく言った。


 喜びに包まれたその数分後、顧問の先生がふらりと部室を覗いた。


「お、結果来た? おめでとう。でね、実は二次審査……」

 そう前置きして、先生は次の課題を伝えた。


「一次の作品をベースに、“テーマを深めた作品”を作ってほしいってさ。続編、みたいなもんかな」


 その言葉に、空気が少しだけ引き締まる。


 放課後の部室。

 スケッチブックを囲んで、アイデア会議が始まった。


「前のは“今のわたしたち”がテーマだったでしょ?」と希音が言う。「だったら、今度は“これからのわたしたち”ってどう? たとえば、虹色の糸で未来の街を刺して……夢の中みたいな、カラフルでときめく感じ!」


 彼女の目がきらきらしている。けれど、その隣で、律が小さく眉を寄せた。


「でも、それって“わたしたちの風景”から離れすぎない? テーマを深めるなら、統一感が必要だと思う。あくまで、同じ軸で考えるべきだよ」


「えー、でも夢も“風景”のうちでしょ? 見たことなくても、心にあるっていうか」


「それは、あなたの主観じゃない?」


 希音の笑顔がピタリと止まった。

 部室に、わずかな沈黙が落ちる。


 いとは、ふたりの間で何か言おうとして、言葉が詰まる。

(どうしたら……? どっちの言ってることも、間違ってないのに)


 正しさと自由。

 構成と直感。

 ふたつの価値観が、まるで別の糸で引っ張られていくようだった。


 下校時、通学路の分かれ道。

 自然と律と希音は、別々の道を選んだ。


「じゃ、また明日ー」と手を振った希音の背中が、少しだけ早足になる。


 律は「……また」と一言だけ残して、反対側へ。


 残されたいとは、その場にぽつんと立ち尽くしていた。


 春の終わりを知らせる風が、制服のすそを優しく揺らす。

 空に滲んだ夕焼けは、どこかふたつの色が混ざらないまま、ただぼんやりと広がっていた。


(……どうして、こんなに難しいんだろう)


 いとは、手のひらを見つめた。

 あのタペストリーを作ったときは、もっと自然に、針を進めていた気がするのに。


 だけど——

(たぶん、難しいのは、ちゃんと“作品”にしようとしてるから。わたしたち、前に進んでるんだ)


 自分にそう言い聞かせながら、いとはそっと小さく息をついた。

 まだ、ほどけたままの糸。

 でも、きっと結べるはず。

 その方法は——明日、また探そう。



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