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糸と針と、わたしたち。  作者: 南蛇井
高校2年生

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58/150

第58話「わたしたちの一針」

部室の空気は、少しだけ張りつめていた。


コンテストの締切まで、あと3日。


テーブルには、4つの“風景”が刺し込まれた大きな布が広がっている。


カラフルで自由な希音のパート。

静かで繊細な律の世界。

淡い光をテーマにした、さゆりの優しい色使い。

そして──いとの春を思わせる、小さな花たち。


それぞれが個性を放っている。でも、どうしてもその“境界”──つなぎ目だけが、まだ手つかずだった。


「……このままだと、バラバラに見えちゃうかな」

さゆりがぽつりとつぶやいた。


「ううん、個性は出てると思う。すごく、いい風景になりそう」

いとは微笑んでそう言いながらも、その“つなぎ”に視線を落とす。


少しのズレ、縫い幅の違い、糸の色の揺らぎ――。

それらは、作品に“あたたかさ”を加えるはずなのに、さゆりは不安を抱えていた。


「……やっぱり、わたしが全部、仕上げたほうがいいのかな」

責任感と迷いが入り混じる声だった。


「さゆりちゃん」


いとは、静かに言葉を選ぶ。


「“全部完璧”より、“みんなで作った”って伝わるほうが、手芸部らしいと思うんだ」


「手芸部らしさ……」


さゆりは、机の片隅に置いてあったまどか先輩のポーチに目を落とす。

少しだけ糸が緩んでいる部分、角がふわっと丸くなっている部分。


でも、それがどこか、やさしい。


まどか先輩の刺繍は、決して機械みたいに正確じゃなかった。

それでも、見る人の心に残る“手のぬくもり”があった。


「――“つなぎ目”にこそ、心が出るんだよね」

ふいに、昔のまどかの言葉がよみがえる。


次の日の昼休み。図書室の窓際。


いととさゆりは、布を広げたノートを前に座っていた。

あと2日で完成させるには、やっぱり、どこかで“決めなければ”ならない。


「ねえ……“つなぎ”ってさ」

いとが静かに切り出す。


「4人で刺してもいいと思う。色も、形も、バラバラでもいい。

 そのほうが、“みんなで作った”って、ちゃんと伝わると思うから」


さゆりはしばらく考えて、ゆっくりとうなずいた。


「……わかった。じゃあ、合作にしよう。

 この真ん中は、わたしたち“みんなの一針”ってことで」


そして、放課後の部室。


4人が向き合って座り、ひとつの刺繍枠に針を落としていく。


ピンクから青へ、緑からグレーへ。

糸は少しずつ重なり、ほどけながらも、新しい形をつくっていく。


誰かの色を引き継ぎ、

誰かの針目に、自分のリズムを重ねる。


ときどき、笑って。

ときどき、無言で集中して。

そうやって、「つなぎ目」が“わたしたち”の一番あたたかい場所に変わっていった。


完成したタペストリーは、どこかいびつだった。


色がはみ出しているところも、刺し方の違いも、きっと審査員には見えるだろう。


それでも――誰ひとり、不満げな顔はしていなかった。


窓辺で、光に照らされながらタペストリーを見つめる4人。


「これが……私たちの“今”なんだね」


さゆりの言葉に、全員が静かにうなずいた。


「誰か一人じゃ、きっとこうはならなかった」

「でも、みんなで縫ったから、ここまで来られたんだよね」

「なんかさ、ちゃんと“部活”になってきた気がする」

「……次も、一緒に作ろうね」


それぞれの声が、ゆるやかにつながっていく。


小さな一針が、今日もまた、誰かと誰かを結んでいた。


To be continued...



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