第51話「新しい扉が開く音」
始業式の朝。
真新しい制服を着た一年生たちの波をかき分けながら、いとは校門をくぐった。
「今日から二年生、かぁ……」
ひとりごちた言葉に、少しだけ重みがある。
階段の途中、「あ、いと先輩!」という後ろからの声に、思わず足が止まる。
先輩。
その響きに、いとは小さく背筋を伸ばした。
部室の扉を開けると、春の匂いがした。
誰もいないはずなのに、どこかに“まどかの気配”が残っている気がする。
いとは、そっと窓を開けて風を入れた。
「新しい風だね」と、さゆりがやって来て、掃除用具を抱えて笑う。
2人で部室の掃除をする時間は、いつもより静かで、そして少しだけ心が弾んでいた。
「新しい子、来てくれるかな……」
いとの呟きに、さゆりは一拍置いて答えた。
「来てくれるよ。だって、わたしたちも、来たじゃない」
その日の昼休み。
掲示板に貼られた「部活見学案内」を見て、ふたりの一年生がやってきた。
ひとりは、明るくて人懐っこい笑顔の女の子。名前は希音。
もうひとりは、無口で少し影のある雰囲気の子。名前は律。
「ここが手芸部なんですかー? わぁ、かわいい!」
希音の第一声に、いとは思わず「ありがとう」と笑って返す。
律は黙って棚の作品を見つめていたが、指先がじっと動くいとの手元に興味を示した。
「……それ、どうやってやるの?」
「これ? よかったら、やってみる?」
針を持つ手はぎこちない。でも、指先はまっすぐだった。
さゆりは小さな刺繍枠を渡し、隣でそっと見守る。
特別な言葉はなかったけれど。
針と糸を通じて、4人の間に流れる空気が、やさしくなっていくのがわかった。
放課後、校庭の桜の下。
いとはランドセルを背負った小学生の頃の自分を、ふと思い出す。
「……わたしたちの“次の春”、来たんだね」
その言葉に、さゆりが横でうなずく。
「うん。あとは、どう咲かせるかだね」
春風が、4人の間をすり抜けていった。
新しい扉が、音もなく──でも確かに、開いた気がした。




