表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
糸と針と、わたしたち。  作者: 南蛇井
高校1年生

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

47/150

第47話「まどかの制服」

春の空は、少しずつその色を変えていく。

窓から差し込む光も、どこか柔らかくなったように思えた。


その日、いとは部室の扉を開けて、小さな紙袋を手に入ってきた。


「これ……まどか先輩から届いたの」


袋の中にあったのは、まどかの制服のブラウスだった。

糊の取れた柔らかな白地。袖口にほんのり色褪せた刺繍糸の跡。


添えられた手紙には、こう綴られていた。


「練習用にでも使ってね。わたしの代わりに、あなたの針で、何かを残してくれたら嬉しいな」


手紙の文字に滲む“信頼”と“優しさ”に、いとの胸はふわりとあたたかくなった。


その晩。

いとは自宅の机に、まどかのブラウスをそっと広げた。


「わたしに、できるかな……」


袖口にそっと指をあてる。

そこで止まった針の跡に、自分の針を添えるように、糸を通した。


浮かんできたのは、あの日の記憶。

はじめての春、はじめての出会い、はじめて“この部活が好き”だと思えた時間。

そのとき、空を見上げて咲いていた、小さな梅の花。


──これを、まどか先輩の印にしよう。


そう決めて、いとは一針ずつゆっくりと刺していく。


紅でもなく、桃でもなく。

いとの選んだ色は、白にほんのり紅がにじむような、淡い花の色だった。


指先に、想いがこもる。


「想いって、針に……込められるんだ」


言葉では言いきれない感謝、憧れ、寂しさ。

全部、この一輪の花に託した。


後日、そのブラウスは部室の棚に飾られた。

“記念品コーナー”の新しい一枚。

ただの制服ではない。手芸部の“軌跡”が縫い込まれた、静かな証だった。


帰り道。

校門をくぐると、夕暮れが街をやさしく包んでいた。


いとはひとりで坂道を歩きながら、空に浮かぶ雲を見上げる。


「想いは、針でつながるんだな……」


そして、ぽつりと心の中でつぶやく。


「わたしも、誰かの“春”になれたらいいな」


風にそっと髪が揺れる。


その言葉を、どこかでまどかが聞いてくれていたような、そんな気がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ