第46話「手芸部、新体制はじめます」
三月の終わり。
桜のつぼみが少しずつふくらみ始めるころ、手芸部の部室では静かな変化が始まっていた。
「春休みとはいえ、意外とやること多いんだね……」
机の上に広げられた予定表を見ながら、さゆりがため息をつく。
いとは、その隣で首をコクコクと縦に振った。
資料には、新入生歓迎のポスター案、部活紹介のスライド作成、備品の整備、展示物の配置図──。
「でも、これ全部……まどか先輩が、今まで自然にやってたんだよね」
ふと手を止め、視線が一冊のノートに落ちる。
表紙の端に細いリボンが結ばれた、部活専用の引き継ぎノート。通称“まどかノート”。
「わたしたちが、“伝える側”になったんだなぁ……」
ぽつりと漏らしたさゆりの言葉に、いとは小さく頷く。
午後、部室で新歓ポスターの下書きを進めながら、2人は同時に手を止めた。
「……なんか、足りないよね」
「うん、“わたしたちらしさ”って、なんだろう?」
派手な言葉で目を引くのは簡単。
けれど、それだけじゃきっと伝わらない。
手芸部は、静かだけど、温かい場所だった──
それをどうやって、新入生に届けたらいいのだろう。
答えの出ないまま、日が傾いていく。
その夜。
いとは自室の机で、“まどかノート”を再び開いていた。
ページをめくるたびに、丁寧な文字と柔らかな絵が現れる。
活動のコツ、道具の手入れ、展示準備の流れ、後輩へのちいさなメッセージ。
その中に、ふと目が止まった一文があった。
「大事なのは、“同じようにやること”じゃなくて、“心を込めて伝えること”。
わたしのやり方をまねるんじゃなくて、あなたたちらしい方法で、次の誰かに繋いでいってね」
──まねじゃなく、自分たちらしく。
いとはそっとノートを閉じた。
心に芽生えた決意が、小さな針のように真っ直ぐ胸に刺さる。
「うん、大丈夫。今度はわたしたちの番だもんね」
その夜、窓の外に見えた星は、少しだけ春のにおいがしていた。




