第41話「はじめての挑戦状」
冬の寒気がまだ残る二月の午後。
放課後の校内を歩いていたいとは、ふと掲示板の前で足を止めた。
「……あ、これ」
色褪せた掲示の中に、新しく貼られたポスターが一枚。
《第7回・地域ミニ手芸作品コンテスト》と、大きくタイトルが印刷されている。
さゆりがその隣に立ち、いとの視線を追った。
「……コンテスト?」
「うん、ほら。“サイズ20cm以内の布作品”“テーマ:私の中の春”……だって」
いとは目を輝かせながら、ポスターを指さす。
さゆりは腕を組み、ふうんと小さく鼻を鳴らした。
「“私の中の春”? なんか、ふわっとしてるね」
「ね。でも……ちょっと、面白そうかもって思ったの。せっかくだし、部として出してみない?」
いとの言葉に、さゆりは驚いたように顔を向けた。
「部として?」
「うん。三人じゃなくても、今いるメンバーで挑戦してみたら、いい経験になるかなって。小さいコンテストだし……私たち、今年から新体制でしょ?」
「……たしかに」
さゆりはしばし黙って考える。
「私の中の春」――抽象的すぎて、何を作ればいいのかまるで見えてこない。
自分の作品が“誰かに見られる”ということも、どこかくすぐったくて、少しだけ怖い。
「でも……表現って、難しくない? “春”って、人によって違うし」
そうこぼす彼女に、いとはそっと笑って言った。
「……難しいよね。でも、だからこそ、刺してみたいなって思った。わたしにとっての春。さゆりの春も、見てみたいな」
柔らかい声に、少しだけ心がほどける。
たしかに、“わたしだけの春”を刺すというのは、簡単じゃない。
でも、自分にしか縫えないものがあるのなら――それはきっと、何かの一歩になる。
さゆりはそっと目を伏せ、そして顔を上げた。
「……じゃあ、出してみるか。どんな作品になるか、まだわかんないけど」
「うん!」
部室に戻ると、2人はさっそくスケッチブックを開いた。
自宅に帰ったいとは、いつもの作業机に向かいながら、心の奥をそっと探っていく。
(春って、どんな色だろう。どんな記憶の手ざわりだろう)
針を持つ指先が、少しだけ震えている。
けれど、その震えすら――新しい“はじまり”のような気がしていた。




