表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
糸と針と、わたしたち。  作者: 南蛇井
高校1年生

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

39/150

第39話「わたしにできること」

金曜の放課後、冬の光が部室の窓から淡く差し込む。コタツの上に並べられたのは、布、糸、レースリボン。

 いととさゆりは、向かい合って座っていた。


「で、結局何にするの? 感謝のプレゼント」

 いとがスケッチブックを開きながら尋ねると、さゆりは慎重に返した。


「正直……悩む。実用的なものがいいと思うけど、思い出にもなるものがいいし……」


「まどか先輩って、裁縫道具をけっこう持ち歩いてるよね。だったら――ポーチ、どう?」


「それ、いいかも。でも、どうせなら特別なやつにしよう。名前……じゃなくて、イニシャル入りの」


 話し合いの末に決まったのは、“まどかのイニシャル入り手芸ポーチ”。


 いとはデザイン、さゆりは仕立て。それぞれの得意分野を活かして、作業が始まった。


 


 それから数日、放課後の部室には、静かで真剣な空気が流れる。


「この糸、光沢があってまどか先輩に似合いそう」

 いとは刺繍の下絵を見つめながら、そっとつぶやいた。


「この布も、先輩が前に“好き”って言ってた色だよ。覚えてる?」

 さゆりは布の端をアイロンで押さえながら、ふと顔を上げる。


 


 だけど、ふとした瞬間。いとの心に、ぽっかりとした穴のような不安が広がった。


 ――まどか先輩が卒業したら、手芸部はどうなるんだろう?

 自分たちだけで、ちゃんと続けていけるんだろうか。


 気づけば針の動きが止まっていた。

 そんな彼女の変化に気づいたのは、やはりさゆりだった。


「……いと。まどか先輩ってね、たぶん、私たちのこと……信じてるよ」

 言葉は短く、でも芯があった。


「信じてる?」

 いとは顔を上げた。


「うん。だからこそ、あんなに丁寧に“ノート”残してくれたんだと思う。未来の部のために、って」


 いとはそっと目を閉じた。まどか先輩の優しい声が、ノートのページから、思い出から、心に重なる。


「……そっか。わたし、“自分にできること”から始めればいいんだ」


 


 完成したポーチは、淡いグレイッシュブルーの生地に、白と銀の刺繍で**“M”**の文字が浮かんでいた。


 飾りすぎず、でもぬくもりがある。まどか先輩のように、優しくて凛としたポーチだった。


「これなら……きっと、喜んでくれる」

 いとは少しだけ胸を張った。


 帰り道の夕焼けの中、冷たい風が頬をかすめても、不思議と足取りは軽かった。


 まだ頼りないかもしれない。でも、自分にできることを一つずつ。

 そんな決意が、いとの胸に静かに芽生えていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ