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糸と針と、わたしたち。  作者: 南蛇井
高校1年生

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35/150

第35話「ちいさな展示会」

冬の午後、陽が落ちかけた学内の廊下。

そこに、ひっそりと現れた、刺繍の小さな展示スペース。


白く柔らかな布に、銀糸やウールで縫い取られた“冬の光”。

手芸部の三人が仕上げた小さな展示が、今、そっと飾られていた。


まだ装飾も控えめで、派手なポスターもない。

でも、そこに足を止める生徒が、一人、また一人と増えていく。


「これ……刺繍? なんか、やさしい感じ」

「寒い季節なのに、あったかいね」


その何気ない感想が、いとたちの耳に届くたび、胸の奥にふわりと火が灯ったようだった。


放課後、部室に戻る途中で、まどかがぽつりとつぶやく。


「“大きな賞”を取らなくても、届く場所ってあるんだよね。……なんか、そんな気がした」


いとはその言葉を、静かに胸の中で繰り返す。


(大きくなくても。派手じゃなくても。ちゃんと、届いてる)


夕焼けの差す廊下に戻り、三人で並んで座る。

展示された作品たちは、まだ温もりを持ってそこに在った。


「静かな展示も、悪くないね」


そうつぶやいたのは、いとだった。


まどかとさゆりが微笑む。三人とも、それ以上多くを語らなかった。

言葉じゃなくて、作品がそこに語ってくれているような気がしたから。


モノローグ:


誰かの足を止める、そんな静かな力。

小さくて、あたたかい光。

わたしの針が、少しでもそれを縫えていたなら。

それで、じゅうぶんだ。



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