第35話「ちいさな展示会」
冬の午後、陽が落ちかけた学内の廊下。
そこに、ひっそりと現れた、刺繍の小さな展示スペース。
白く柔らかな布に、銀糸やウールで縫い取られた“冬の光”。
手芸部の三人が仕上げた小さな展示が、今、そっと飾られていた。
まだ装飾も控えめで、派手なポスターもない。
でも、そこに足を止める生徒が、一人、また一人と増えていく。
「これ……刺繍? なんか、やさしい感じ」
「寒い季節なのに、あったかいね」
その何気ない感想が、いとたちの耳に届くたび、胸の奥にふわりと火が灯ったようだった。
放課後、部室に戻る途中で、まどかがぽつりとつぶやく。
「“大きな賞”を取らなくても、届く場所ってあるんだよね。……なんか、そんな気がした」
いとはその言葉を、静かに胸の中で繰り返す。
(大きくなくても。派手じゃなくても。ちゃんと、届いてる)
夕焼けの差す廊下に戻り、三人で並んで座る。
展示された作品たちは、まだ温もりを持ってそこに在った。
「静かな展示も、悪くないね」
そうつぶやいたのは、いとだった。
まどかとさゆりが微笑む。三人とも、それ以上多くを語らなかった。
言葉じゃなくて、作品がそこに語ってくれているような気がしたから。
モノローグ:
誰かの足を止める、そんな静かな力。
小さくて、あたたかい光。
わたしの針が、少しでもそれを縫えていたなら。
それで、じゅうぶんだ。




