第31話「つながる針先」
文化祭が終わり、学校には少しずつ冬の気配が漂い始めていた。
だけど、手芸部の空気はまだ秋の温もりをまとっていた。
放課後の部室に、ノックの音が響いた。
「失礼します! あの……見学、してもいいですか?」
戸を開けて現れたのは、制服のリボンがまだ鮮やかな一年生の女の子たちだった。三人連れで、少し緊張した面持ち。
いとが「もちろん、どうぞ」と笑顔で迎えると、ふっと空気が和らいだ。
「文化祭で見たタペストリー、すごく素敵で……」
「刺繍って、地味だと思ってたけど、全然そんなことなくて……」
「わたしも、やってみたくなりました!」
その言葉に、いとの胸がきゅっとなる。
まさか自分たちの作品を見て、部活に入りたいと思ってくれる人がいるなんて――。
さゆりも少し驚いたように目を丸くしてから、すぐに微笑んだ。
「……なんか、不思議。あのタペストリー、ちゃんと誰かに届いてたんだね」
後日、いとは家庭科室の前で、小さな封筒を渡された。差出人は、文化祭のワークショップに参加してくれた近所の小学生からだった。
封を開けると、中には手描きの刺繍の絵と、ひらがなが並んだお礼の手紙。
『はじめてチクチクしたの、たのしかったです。おねえさんたちみたいに、じょうずになりたいです』
いとは胸を押さえた。
ちくりとする、でも、あたたかい針先のような気持ち。
「……誰かに、届くって、こういうことなんだな」
その日の帰り、部室で三人が顔を合わせる。
「見学、嬉しかったね」
まどかがポットにお湯を注ぎながら言った。
「この部活、ちょっとずつ“誰かの場所”になってきてる気がする」
いとはゆっくりうなずいた。
「文化祭って、“終わった”んじゃなくて、“始まり”だったんだね」
さゆりは窓の外を見ながら、静かにつぶやく。
「……刺繍って、ひとりでやるものだと思ってた。だけど、誰かと針を進めるのも、悪くない」
部室の机には、いとの新しい図案が置かれていた。
紅葉が落ち、やがて冬が訪れる、その合間の静かな季節。
少しずつ形をなしていく刺繍の模様のように、部の空気もまた、少しずつ変わっていく。
針先がつないだのは、糸だけじゃない。
心と心、人と人、想いと未来。
いとは、そっと針を持ち直し、真っ白な布に新しい一針を刺した。




