表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
糸と針と、わたしたち。  作者: 南蛇井
高校1年生

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

31/150

第31話「つながる針先」

文化祭が終わり、学校には少しずつ冬の気配が漂い始めていた。

 だけど、手芸部の空気はまだ秋の温もりをまとっていた。


 放課後の部室に、ノックの音が響いた。


「失礼します! あの……見学、してもいいですか?」


 戸を開けて現れたのは、制服のリボンがまだ鮮やかな一年生の女の子たちだった。三人連れで、少し緊張した面持ち。


 いとが「もちろん、どうぞ」と笑顔で迎えると、ふっと空気が和らいだ。


「文化祭で見たタペストリー、すごく素敵で……」

「刺繍って、地味だと思ってたけど、全然そんなことなくて……」

「わたしも、やってみたくなりました!」


 その言葉に、いとの胸がきゅっとなる。

 まさか自分たちの作品を見て、部活に入りたいと思ってくれる人がいるなんて――。


 さゆりも少し驚いたように目を丸くしてから、すぐに微笑んだ。


「……なんか、不思議。あのタペストリー、ちゃんと誰かに届いてたんだね」


 後日、いとは家庭科室の前で、小さな封筒を渡された。差出人は、文化祭のワークショップに参加してくれた近所の小学生からだった。


 封を開けると、中には手描きの刺繍の絵と、ひらがなが並んだお礼の手紙。


『はじめてチクチクしたの、たのしかったです。おねえさんたちみたいに、じょうずになりたいです』


 いとは胸を押さえた。

 ちくりとする、でも、あたたかい針先のような気持ち。


「……誰かに、届くって、こういうことなんだな」


 その日の帰り、部室で三人が顔を合わせる。


「見学、嬉しかったね」

 まどかがポットにお湯を注ぎながら言った。

「この部活、ちょっとずつ“誰かの場所”になってきてる気がする」


 いとはゆっくりうなずいた。

「文化祭って、“終わった”んじゃなくて、“始まり”だったんだね」


 さゆりは窓の外を見ながら、静かにつぶやく。


「……刺繍って、ひとりでやるものだと思ってた。だけど、誰かと針を進めるのも、悪くない」


 部室の机には、いとの新しい図案が置かれていた。

 紅葉が落ち、やがて冬が訪れる、その合間の静かな季節。

 少しずつ形をなしていく刺繍の模様のように、部の空気もまた、少しずつ変わっていく。


 針先がつないだのは、糸だけじゃない。

 心と心、人と人、想いと未来。


 いとは、そっと針を持ち直し、真っ白な布に新しい一針を刺した。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ