第28話「文化祭の朝と想い出」
朝の校舎が、いつもよりずっと賑やかだった。
教室の窓にはカラフルな装飾。廊下を走る足音、模擬店の準備をする生徒たちの声。文化祭の幕が、いよいよ上がった。
手芸部の展示スペース──旧理科室の一角に設けられた展示室には、朝からたくさんの来場者が足を運んでいた。
「わぁ……これ、本当に高校生が作ったの?」
「すごい細かい刺繍……。色も綺麗」
その中心に飾られているのは、3人で徹夜して完成させた**「秋の彩りタペストリー」**。
真ん中に大きな紅葉、そのまわりを囲むどんぐり、木の実、秋桜……深い赤、金茶、山吹色、木漏れ日のような糸が、見る人の目を引いて離さない。
いとは、部屋の隅からその様子をじっと見つめていた。
「……本当に、飾られてるんだなあ」
まどかが後ろから声をかける。
「ちゃんと“届いてる”よ。いとの刺した秋、みんなに」
いとはちょっと照れくさそうに笑った。
「ありがと。でも……まだドキドキしてる」
「うん、それでいいと思う。伝えるのって、きっといつだってちょっと怖いし、うれしいんだよ」
展示の一角では、ワークショップも開かれていた。
フェルトのブローチ作りや、簡単な刺繍体験。まどかが説明をして、さゆりが技術をサポートし、いとは小さな子どもたちに優しく声をかけていた。
「上手にできたね、すごい! この色、秋の夕焼けみたい」
「この針の使い方、すごいですね!」
来場者からのそんな言葉に、3人は少しずつ緊張を解き、笑顔が増えていった。
さゆりがふとつぶやいた。
「……人に教えるのって、思ったより難しいね」
「でも、楽しいね」
いとの言葉に、まどかもうなずく。
「うん。“伝える”って、こういうことなのかも」
夕方、文化祭も終わりに近づく。
展示スペースの片付けをしながら、3人はふと手を止め、タペストリーの前で立ち止まった。
「……なんだか、ずっと前のことみたいだね。合宿で、これのもとになった図案、描いてたとき」
まどかが、ぽつりとつぶやく。
「うん。夜の校舎で、徹夜で縫ったよね」
いとが笑うと、さゆりも頬を緩めた。
「展示会で、いとが緊張してたの、懐かしい」
「言わないでよ〜。ほんと、あのときは……!」
笑い声が部室に響く。
思い出が、静かに積もっていくようだった。
帰り際、3人は校舎の前でスマホを取り出した。
「じゃあ……せーの!」
パシャッ。
3人の笑顔と、タペストリーと、秋の夕日が、1枚の写真の中におさまった。
青春の、かけがえのない一ページ。
いとはスマホの画面を見つめながら、小さくつぶやいた。
「もっと……もっと成長したいな」
「うん。まだまだ刺せるもんね、いとの“季節”」
まどかの言葉に、いとは頷く。
さゆりがカメラを構え、ふたりの横顔をもう1枚、そっと切り取った。
秋の風が、制服のすそを揺らしていた。




