表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
糸と針と、わたしたち。  作者: 南蛇井
高校1年生

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

26/150

第26話「試行錯誤の午後」

放課後の部室に、紙をめくる音と、ペンが走る音が響いていた。


窓の外には、少しだけ色づき始めた木々。秋がそっと忍び寄るなか、手芸部の3人は「文化祭用のタペストリー」制作に頭を悩ませていた。


「赤だけじゃ物足りない気がして……ここに藍色を入れたら、もっと深みが出るんじゃないかなって」


机の上に図案を広げながら、いとがそっと言う。


その案に、さゆりの眉がほんの少しだけ動いた。


「……うん。でも、藍色って秋には冷たすぎるかも。もう少し、落ち着いた茶系でつなげた方が、流れが自然かなって」


「うーん、でも……思い切って変えてみたら、印象も変わるかも。挑戦してみたくて」


二人の声に挟まれて、まどかはにっこり笑った。


「つまり、“深まる秋”か“移ろう秋”か、って感じかな? どっちもいい。ちょっと休憩して、もう一回見直してみよ?」


まどかの言葉に導かれ、三人は図案をたたみ、資料を持って図書館へと向かった。


図書館の手芸コーナーには、季節の刺繍や染色の本がずらりと並んでいた。


いとはページをめくりながら、さまざまな「秋の表現」と出会う。


落ち葉の刺し方。どんぐりの質感を出すためのステッチ。濃淡で深みを出す陰影技法──。


「……ねぇ、この“シャドウ刺しゅう”、やってみない?」


いとが本を傾けて見せると、さゆりが目を細めて覗き込んだ。


「これ、前に少し練習したことある。難しいけど、やれたらすごく綺麗だと思う」


「そっか……練習、してみようかな。わたしも、ちゃんと学びたい」


まどかは手帳にメモを取りながら、「いとの“やってみたい”って気持ち、いいと思うよ」とぽつりとつぶやいた。


技術を学ぶのは、時間もかかるし、根気もいる。でもその“やってみたい”の気持ちが、手芸のいちばん最初にあるべきものだと、彼女たちはもう知っていた。


夕方、校庭の片隅にある木製ベンチに腰を下ろす。


空には淡い夕焼け。風に乗って、ほんのりと金木犀の香りが漂ってきた。


「……昔、母がよく刺してたの。こたつに入って、みかん食べながら。あの時間が、すごく好きだったな」


そうつぶやいたのは、さゆりだった。


いとは驚いて振り向いた。さゆりが家族の話をするのは、珍しい。


「うちの母は逆に“ミシン一筋”でさ。細かい手刺繍とか、“目が疲れる!”って言って、わたしが刺してるの見て笑うの。でも、ちょっと嬉しそうでもあったかも」


笑い合ういととさゆり。そのやりとりを見て、まどかが静かに笑う。


「家族の思い出、手芸にいっぱい詰まってるね。そういうのも、“温もり”なのかも」


いとは、ゆっくりと息を吐いた。


「……わたし、もっと自分の“好き”をちゃんと伝えていきたい。怖いけど、でも、ちゃんと」


さゆりが、まっすぐにいとを見た。


「じゃあ、ちゃんと聞くよ。ちゃんと話してくれるなら」


そう言って、手のひらを差し出す。


いとは、その手に自分の指を重ねた。小さな約束のように。


夕暮れのベンチの上で、三人の間に静かであたたかな絆が織られていった。


そして、その絆が、新しい一針へとつながっていく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ