第25話「文化祭に向けて始動」
十月、風の匂いが変わった。
校舎を吹き抜ける秋の風が、掲示板のポスターをパタパタと揺らしている。そこに、新しく貼り出された一枚の手描きポスターが加わった。
「手芸部出展決定! テーマ:秋と手仕事の温もり」
どこか温かみのある文字と、色鉛筆で描かれた紅葉とどんぐりのイラストが目を引く。見上げる生徒たちの視線に、いとは少しだけ背中をそらした。
「……貼っちゃったね」
「貼ったねー。これでもう、後戻りはできません」と、まどかがにっこり笑う。
「ま、元から引き返す気なんてなかったけど」と、さゆりが腕を組む。
場所は校内掲示板前。手芸部三人の目の前には、文化祭に向けて動き出した証が、しっかりと残されていた。
「じゃあ、タペストリーの図案は私が担当するね。ワークショップの進行はさゆりで、告知関係は……いと、お願いできる?」
放課後の部室、まどかがホワイトボードの前に立って、手際よく役割分担を決めていく。頼れる部長としての姿がそこにあった。
「……うん。やってみる」と、いとは緊張しながらもうなずいた。
文化祭は、彼女たちにとって初の本格的な“対外イベント”。しかも今回は、展示だけでなく体験型のワークショップも開くことになっている。
テーマは「秋と手仕事の温もり」。秋の景色をモチーフにしたタペストリーと、来場者向けのミニ刺繍体験。準備することは山ほどあった。
「いと、企画書の書き方わかる?」
「ううん、初めて……でも、まどかに教えてもらえたら……!」
「もちろん! 放課後に一緒にやろう。ちゃんとサポートするよ」
「私もポスター用の素材とか、絵の具出しとくね」とさゆり。
三人の声が部室に重なって、まるで柔らかな布地のように織りあがっていく。目の前には、まだ白紙のキャンバス。でも、それが怖くなかった。みんなと一緒なら、少しずつ色を重ねていける気がした。
そして今朝、掲示板にポスターを貼り終えた。
けれど、いとの胸にはひとつ、言葉にならない感情が残っていた。
「……ちゃんと、できるかな。わたし」
「できるよ」と、隣からまどかの声。「いとは一番まっすぐだから、そのままで大丈夫」
さゆりも横目で見ながら、「プレッシャーを感じるのは、それだけ本気ってこと」と静かに言った。
いとは深呼吸して、頷く。
──絶対、成功させたい。
その想いが、小さな不安を押しのけて、胸の真ん中に残った。
ポスターが風に揺れる。秋が、始まる。




