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糸と針と、わたしたち。  作者: 南蛇井
高校1年生

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第22話「展示されるって、こういうこと」

土曜日の午前、3人は地域文化ホールの入り口に立っていた。


空は雲ひとつない晴天。なのに、いとの胸の奥は、ずっと重たいままだった。


「……大きいね」


思わず出た言葉に、まどかが「うん」と答える。さゆりも小さくうなずいた。


入口の自動ドアを抜けると、静謐な空気に包まれる。天井は高く、展示ブースの列が整然と続いていた。ガラスケースの中には、精緻な刺繍、レース編み、織物、フェルト細工──どれも“本物”に見えた。


「ここに……わたしのが、飾られるの……?」


立ち止まったまま、いとはぽつりとつぶやく。


展示予定の区画を案内されると、そこは壁沿いに設けられた一角だった。他のブースよりは少し控えめだが、照明も当たっていて、見やすい配置になっている。


「わあ、ちゃんと作品が映える場所だね」とまどかが明るく声をかけたが、いとは無言のまま立ち尽くしていた。


彼女の目には、周囲の“プロの作品”たちばかりが映っていた。細部まで完璧で、色づかいも構図も緻密で洗練されていて──自分の作品なんて、ここに並べるのが申し訳ないような気がしてきた。


「……わたし、場違いだったかも」


思わず出た言葉に、まどかが振り返る。そして、いとの肩にそっと手を置いた。


「ううん。いとは、いとのままでいいんだよ」


「でも……みんなの作品、すごくて。比べちゃう」


まどかは少しだけ笑った。


「展示されるって、誰かと比べるためじゃなくて。届けたいって思った気持ちが、ここに来させてくれるんだよ」


その言葉に、いとは少し目を伏せる。まどかは続けた。


「“これが私の夏でした”って、あなたが言いたかったこと、それがちゃんと誰かに伝わる。それが一番大事なことだよ」


いとの隣で、さゆりが口を開いた。


「……わたしも、この間そう思ったよ。展示って、“評価”じゃなくて“対話”なのかもって」


少し照れたように笑ったさゆりの表情が、いつになく穏やかで優しかった。


「だから、ここに来られただけでも、すごいんだよ、いと」


いとはゆっくりと二人の顔を見た。


緊張はまだ消えていない。けれど、その中に、ほんの少しのあたたかさと、誇りのようなものが灯っていくのを感じた。


「……ありがとう。がんばって、展示するね」


小さな声だったが、いとの言葉に、まどかもさゆりも、うれしそうにうなずいた。


広い展示会場。その中の小さな一角に、ひとりの少女の「夏」が飾られる日が、少しずつ近づいていた。



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