第21話「推薦されたのは、わたし?」
部室の窓から差し込む午後の日差しが、机の上の刺繍糸にやわらかく光を落としていた。夏休み明け、久しぶりに全員が揃った手芸部には、どこか心地よい静けさが漂っていた。
その静けさを破ったのは、顧問の先生だった。職員室から直接、部室へとやって来て、穏やかな笑みを浮かべながらいとに声をかけた。
「いとさん、少しお話、いいかな?」
小さな緊張が走った。いとはおそるおそる立ち上がり、先生の後ろをついていく。まどかとさゆりが「がんばれ」と目で送りながら見守ってくれた。
職員室前の廊下で足を止めると、先生が本題を切り出した。
「この前の合宿で作ったタペストリー、見せてもらったよ。すごく、良かった」
「……ありがとうございます」
声が小さくなってしまう。まだ信じられない気持ちが強くて、目を合わせるのも少し恥ずかしかった。
「実はね、いとさんの描いた図案、地域の“手作りアート展”に推薦したいって話が出てるんだ。校内からの代表として、出してみない?」
一瞬、時間が止まったような気がした。
「え……わたし、ですか?」
思わず問い返すと、先生はうなずいた。
「もちろん、部としての推薦だけど、あの“夏の光”をテーマにした図案、とても印象的だった。見る人の心に残る、そんな作品だったよ」
いとは、言葉が出なかった。手の中が少し汗ばんでいる。自分が、そんなふうに評価されるなんて。
部室へ戻ると、まどかがすぐに近づいてきた。
「どうだった?」
「……推薦、された。アート展に」
そう告げると、まどかの目がぱっと輝いた。
「すごいじゃん、いと! おめでとう!」
「でも……本当に、わたしでいいのかな。さゆりもまどかも、もっと上手なのに」
つぶやくように言うと、まどかは少しだけ首をかしげて、優しく言った。
「上手いかどうかだけじゃないよ。“いとのまっすぐ”が、届いたんだと思うよ」
“まっすぐ”。それは、自分ではなかなか気づけない、自分の芯。そういうものが、作品に出ていたのだとしたら――。
放課後の帰り道、夕焼けがゆっくりと空を染めていく中で、いとはそっとつぶやいた。
「届いた、んだ……わたしの、夏」
その言葉は、少しずつ、誇らしさに変わって胸の中に広がっていった。




