表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
糸と針と、わたしたち。  作者: 南蛇井
高校1年生

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/150

第21話「推薦されたのは、わたし?」

部室の窓から差し込む午後の日差しが、机の上の刺繍糸にやわらかく光を落としていた。夏休み明け、久しぶりに全員が揃った手芸部には、どこか心地よい静けさが漂っていた。


その静けさを破ったのは、顧問の先生だった。職員室から直接、部室へとやって来て、穏やかな笑みを浮かべながらいとに声をかけた。


「いとさん、少しお話、いいかな?」


小さな緊張が走った。いとはおそるおそる立ち上がり、先生の後ろをついていく。まどかとさゆりが「がんばれ」と目で送りながら見守ってくれた。


職員室前の廊下で足を止めると、先生が本題を切り出した。


「この前の合宿で作ったタペストリー、見せてもらったよ。すごく、良かった」


「……ありがとうございます」


声が小さくなってしまう。まだ信じられない気持ちが強くて、目を合わせるのも少し恥ずかしかった。


「実はね、いとさんの描いた図案、地域の“手作りアート展”に推薦したいって話が出てるんだ。校内からの代表として、出してみない?」


一瞬、時間が止まったような気がした。


「え……わたし、ですか?」


思わず問い返すと、先生はうなずいた。


「もちろん、部としての推薦だけど、あの“夏の光”をテーマにした図案、とても印象的だった。見る人の心に残る、そんな作品だったよ」


いとは、言葉が出なかった。手の中が少し汗ばんでいる。自分が、そんなふうに評価されるなんて。


部室へ戻ると、まどかがすぐに近づいてきた。


「どうだった?」


「……推薦、された。アート展に」


そう告げると、まどかの目がぱっと輝いた。


「すごいじゃん、いと! おめでとう!」


「でも……本当に、わたしでいいのかな。さゆりもまどかも、もっと上手なのに」


つぶやくように言うと、まどかは少しだけ首をかしげて、優しく言った。


「上手いかどうかだけじゃないよ。“いとのまっすぐ”が、届いたんだと思うよ」


“まっすぐ”。それは、自分ではなかなか気づけない、自分の芯。そういうものが、作品に出ていたのだとしたら――。


放課後の帰り道、夕焼けがゆっくりと空を染めていく中で、いとはそっとつぶやいた。


「届いた、んだ……わたしの、夏」


その言葉は、少しずつ、誇らしさに変わって胸の中に広がっていった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ