第150話「未来への贈り物」
春は、足音を忍ばせて近づいてくる。
数日前まで肌を刺すようだった風が、今日はほんの少し柔らかい。
ゆらは、部屋の片隅に置いた段ボールをガムテープで留めながら、ふと机の上を見る。
そこには卒業制作の写真が一枚。――あれは確か、「未来の自分への贈り物」として作ったものだ。
(きっと何年後かに見ても、あの日の気持ちを思い出せる)
そう思うと、胸の奥にあたたかい灯りがともった。
さゆりは、進学先の資料を鞄にしまいながら、自分の描いた図案集をそっと撫でる。
あのとき、迷いながらも描ききった未来図は、今も彼女を前へ押してくれる。
律は、新しいノートをカフェのテーブルに広げていた。
記録すること、まとめること――あの部で培った習慣は、これからも続く。
三人は、それぞれ別の場所にいても、同じ春の空の下にいる。
街路樹のつぼみが、ほんのり色づいていた。
新しい生活が、もう始まろうとしている。
そしてその一歩は、あの日作った「未来への贈り物」に背中を押されている。
――また会える、その日まで。
彼女たちは、少し暖かくなった風を受けながら、それぞれの道を歩き出した。
エピローグ「また、この場所で」
数年後。
あの日の部室があった校舎は、新しい外壁に塗り替えられていた。
春休みの静かな午後、校門の前に三つの影が並ぶ。
「……変わったね」
「でも、ここに来るとやっぱり落ち着く」
「うん、帰ってきたって感じ」
ゆら、さゆり、律。
卒業以来、何度か会ってはいたが、三人でこの場所に立つのは久しぶりだ。
小さな花束を手に、彼女たちはギャラリーへ向かう。
そこには、後輩たちの展示が並んでいた。色とりどりの作品に囲まれ、三人は目を合わせて微笑む。
「……やっぱり、いいね」
「うん。こうして続いてるのが、うれしい」
まるであの日の自分たちが、別の時間軸から手を振ってくれているようだった。
――また何か作ろう。
そんな約束を胸に、彼女たちはゆっくりと展示会場を後にした。
外には、あの春と同じ、やさしい風が吹いていた。




