第15話「展示準備」
蝉の声が響き始めた午後。部室には扇風機の音と、紙をめくる音だけが漂っていた。
「紹介コメントって、どんな風に書いたらいいのかな……」
さゆりは、A4サイズの紙を見つめながら小さく呟いた。
部として初めて外部で作品が展示される。
作品だけでなく、展示台の飾り付けや説明文など、すべて手芸部で準備することになっていた。
「“見る人に伝える”って、すごく難しいね」
いとも言いながら、色とりどりの折り紙を切り貼りしていた。
「うん。でもね、展示って“見せる”んじゃなくて、“届ける”ものなんだよ」
まどかが刺繍糸の束を整えながら口を開く。
「どんな気持ちで作ったのか、どこを見てほしいのか。そういうのも含めて、展示空間全体が作品になるの」
さゆりは、その言葉をかみしめるようにうなずいた。
──届ける、か。
帰り道、3人は展示会場となる地域センターを下見に訪れた。
白い壁、静かなフロア。日差しがガラス越しに差し込む一角に、展示スペースが用意されていた。
「ここに……私のが、飾られるんだ」
さゆりは、そっとつぶやいた。
まだ何もないその壁を見つめながら、彼女の中で少しだけ、怖さよりも“伝えたい”という気持ちが勝っていた。
その夜。さゆりは自室でペンを握りしめた。
「……この刺繍は、雨の午後に見た紫陽花の、やさしい光の記憶です。静かに見ていただけたら嬉しいです」
書き上げた紹介文を読み返しながら、彼女の表情には、ほんの少しだけ笑みが浮かんでいた。




