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糸と針と、わたしたち。  作者: 南蛇井
高校3年生

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145/150

第145話「さいごの朝練」

卒業式の前日。午前中だけの登校日だというのに、私たちは当然のように部室に集まっていた。

 部室の引き戸を開けると、いつもの匂い――紙と絵の具と、ほんの少しの木材の香り。窓から差し込む冬の光が、棚や机の上の小物たちを柔らかく照らしていた。


「じゃあ、最後の掃除、始めますか」

 律がそう言って、ほうきを手に取る。

「最後って言わないでよ~。なんか寂しくなるじゃん」

 ゆらが唇を尖らせながらも、机の上の作品をそっと片付け始める。


「じゃあ……“さいごの朝練”にしようか」

「朝練?」

「ほら、部活前の準備時間みたいなやつ。練習ってつくと、なんか特別っぽくないでしょ?」

 ゆらがにやっと笑う。私と律は顔を見合わせ、くすっと笑った。


 掃除は意外と手際よく進んだ。窓ガラスを拭く律の横で、私は本棚を整理し、ゆらは机の引き出しから使いかけのマスキングテープや針山を発掘しては「これ、まだ使えるよ」と持ってくる。

 ひと段落したところで、ゆらがバッグからカサカサと音を立てて袋を取り出した。

「はい、今日のおやつタイム~」

 中身はチョコレートにクッキー、そしてなぜかカップスープまで。

「どんだけ“朝練”に本気出してるの」

 律が呆れた声で笑う。


 机を囲み、紙コップにお湯を注ぎながら、他愛ない話が続いた。進路のこと、新生活の準備のこと、そして、去年の文化祭の思い出話。

 笑っているうちに、ふと、胸の奥が温かくなる。

 こうして笑い合った日々が、いつの間にか積み重なって、今の私たちになったんだ――そう思うと、言葉にできない充足感が押し寄せてくる。


「じゃ、もうちょっとだけ掃除して終わりにしよっか」

 律の言葉に、私とゆらはうなずく。

 窓から差し込む光は少し傾き、部室の中に長い影を落としていた。

 最後の朝練は、静かで、優しくて、そして――ちゃんと私たちらしかった。



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