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第143話「見てくれる人がいるから」
展示会場の一角。
私の作品の前で、一人の下級生が立ち止まっていた。
制服の袖口をぎゅっとつかんだまま、じっと刺繍の模様を見つめている。
「あの……これ、先輩が作ったんですか?」
「うん、そうだよ」
「私も……こういうの、作りたいです」
その言葉は、展示室のざわめきの中でもはっきり耳に届いた。
胸の奥で、静かに火が灯るような感覚。
――見てくれる人がいる。
それだけで、続けたい理由になるんだ。
後日、部室でその子に刺繍の基礎を教えることになった。
糸を針に通すときのコツや、布を引きすぎない力加減。
真剣な顔でうなずく後輩を見ていると、気づけば笑っていた。
「先輩って、教えるの上手ですね」
「……そう?」
少し照れくさいけれど、悪くない。
ちょっとだけ、“先輩”の自分を誇らしく思えた。




