第140話「一緒にいると、見えるものがある」
「ゆら、志望理由書。明日までに出してね」
担任の一言が、教室にいたゆらの背中を押すように響いた。
──志望理由書、ねぇ……。
頭の中は白紙のまま、放課後の帰り道へ。
商店街の夕暮れは、もう冬の色だった。
赤い提灯の下を通り過ぎ、ふと足が止まる。
雑貨屋のショーウィンドウに、透明なケースに収められた裁縫道具セットが並んでいた。
色とりどりの糸、ピカピカの針山、コンパクトなハサミ。
──これ、部室にあったら便利そう。
迷わず手に取り、財布を開く。
「卒業制作の仕上げに、ちょうどいいや」
部室に戻ると、さゆりと律が机を挟んで何やら熱心に話していた。
「この縫い目、もうちょっとこうしたらどう?」
「いや、それもいいけど、この線は残したいな」
持ってきた裁縫道具を机に置くと、「おおー!」と二人の声が重なる。
「新品だ! めっちゃ切れ味よさそう」
「糸もカラフル……どれ使おうかな」
笑いながら針に糸を通し、三人で手を動かす。
その空気は、あたたかくて、にぎやかで、なんだか胸がいっぱいになる。
(ああ……私、こういう時間が好きなんだ)
一人で作るのも悪くないけど、誰かと一緒に、わいわいしながら作ると、もっと楽しい。
完成品だけじゃなく、この時間ごと、大事にしたい。
帰宅後、机に向かう。
志望理由書の一行目に、迷わずペンを走らせた。
「人とつながるものを作りたい」
それが、今の自分の、いちばん正直な理由だった。




