第139話「やりたいことと、できること」
進路指導室は、冬の光に照らされて白っぽく見えた。
机の向こうで先生が、律のファイルをパラパラとめくっている。
「律、この記録力や構成力、すごいよ。こういうのを活かせる仕事はたくさんある」
「……そうですか」
「興味のある分野は?」
「……まだ、決められません」
自分でも、はっきりしている。
やりたいことが“ない”わけじゃない。
ただ、それを職業にする想像が、まだできないだけだ。
放課後の部室。
卒業制作に向けて、ゆらは明るい色の布を広げ、さゆりは丁寧に下絵を描いている。
二人とも、ためらいがない。
自分の「形」を、もう知っているみたいだ。
それを横目で見ながら、律はふと胸がざわつく。
──俺は、何を作ればいい?
ペンを回しながら考えていると、今までの自分の作業風景が脳裏によみがえる。
部誌のレイアウト、取材メモ、二人の作品に添えるキャプション──
どれも、自分のためというより、誰かの良いところを見つけて、それを引き出すためにやってきたことだ。
(……あ、そうか)
やりたいことと、できることは、別じゃない。
その間に、ちゃんと自分の答えがある。
ノートを開き、ペン先を置く。
タイトルはまだ決めない。
でも、テーマはもう決まっている──
「誰かの力を見つけて、形にする」。
それが、自分の作品だ。




