第137話「“最後”じゃなくて、“次の始まり”」
冬休み明けの部室は、ストーブの熱でふわっとした暖気が漂っていた。
窓の外はまだ冬の色で、曇ったガラスに、ゆらの指が無意味な落書きを描いている。
「三年生はね、卒業制作をやるのが恒例なんですよ」
そう言ったのは顧問の穂積先生。開口一番に切り出され、部室の空気が一瞬だけ固まった。
「卒業制作……ってことは、これが“最後の作品”ってことですよね?」
ゆらが、顔をしかめる。
「やだー! 最後なんて、寂しい! 作ってる間に泣いちゃうかもしれないじゃん!」
その隣で、律は顎に手をあててじっと考えていた。
「最後……っていうより、次につながるものを作ればいいんじゃない?」
その一言で、空気が少し和らぐ。
「次につながる?」
「うん。たとえば、これから先の自分に向けたものとか、後輩へのメッセージとか」
律の言葉は、外の冷気よりもゆっくりと胸に沁みてくる。
さゆりは、机の上の針山を指先でつつきながら、ぽつりとつぶやいた。
「……そうか。ここから先に進むための“節目”かもしれない」
自分で言って、少しだけ口元が緩む。
「じゃあ、テーマはどうする?」
ゆらの目が、今度はきらきらしている。さっきまで「寂しい!」と駄々をこねていたとは思えないほど。
律はノートを開き、ページの隅に小さく書いた。
──未来への贈り物。
「それ、いいかも」
「なんか、ワクワクするね」
「うん、“最後”っていうより、これからのため、って感じがする」
こうして、三人の卒業制作は、“終わり”ではなく“始まり”として、静かに幕を開けた。




