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糸と針と、わたしたち。  作者: 南蛇井
高校3年生

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135/150

第135話「ばらばらなのに、ひとつの“手芸部”」

 展示準備の日、放課後の教室は仮設の展示室へと変わっていた。

 机を移動させ、布をかけて、作品を並べていく。

 照明の角度、パンフレットの配置、導線のチェック──律は黙々と動きながら、どこか落ち着かない気持ちを抱えていた。


(……なんだろう、この違和感)


 自分たちの作品を並べてみると、想像以上に「まとまり」がなかった。

 さゆりの繊細な刺繍。ゆらのカラフルで奇抜なフェルトアート。律の幾何学的で整然としたパッチワーク。

 ジャンルもテーマも、世界観もバラバラ。


 色も、質感も、空気感も、違いすぎる。


 律は無意識に眉をひそめていた。


(これって……展示として、成立してるのかな)


「ねえ、律ー、そっち、布シワ寄ってるよ!」


 ゆらの声に我に返り、あわてて手を直す。

 その隣では、さゆりがパンフレットの印刷チェックをしていた。


 ふと、二人のやり取りをぼんやりと見てしまう。


 さゆり:「ゆらちゃん、それ、色合わせすごくかわいい」


 ゆら:「でしょ? でもなんかさ、隣にさゆりの作品あると、ちょっと“真面目さ”増して見えない? ありがたや〜って感じ」


 さゆり:「なにそれ……ふふ」


 くだらないやりとりなのに、どこかぴったりと噛み合っている。

 まったく違う人たちなのに、なぜか違和感がなかった。


 その瞬間、律はふと、気づいてしまった。


(……バラバラなのに、どこか、同じ方向を見てる)


 色も形も違う。考えていることも、好きなものも、作り方も、違う。

 だけど、それぞれが“ちゃんと見て”“考えて”“形にして”きた。

 その一点だけが、奇妙なくらい、ぴたりと揃っていた。


 そして、それこそが──部活だった。


 律は、パネルに貼るタイトルカードを手に取りながら、小さくつぶやく。


「……一人ひとり違うのに、“部活”として何かになってる。不思議だね」


 ゆらが、いつもの調子でくるりと振り返る。


「不思議だけど、いいでしょ?」


 その言葉に、律も、思わず口元をゆるめる。


    ◇


 展示の片づけが終わった帰り道。

 坂道を三人で並んで歩く。遠く、街の灯りが滲んでいた。


「展示用のパンフレットさ、タイトルどうしようかって言ってたじゃん?」

 ゆらが言うと、律は少しだけ歩を止めて、鞄の中から一枚の紙を取り出した。


「これ、仮なんだけど──“私たちの1年と、これから”って、どう?」


 その言葉に、さゆりは目を細めた。


「うん……好き」


「私もー! それっぽいし、なんか……ちょっと青春っぽい!」


 律は、軽く肩をすくめる。


「“それっぽい”って何……。まあ、いいけど」


 ばらばらな足音。でも、不思議と同じリズムで響く三人の帰り道。

 その背中に、ゆっくりと夏の夜風が吹いていた。

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