第133話「“展示”って、作品を並べるだけじゃないんだ」
冬の気配が、校舎の窓ガラスを曇らせている。
日下部ゆらは、部室の机に肘をつきながら、お菓子の袋をカサカサ言わせていた。
「ほら見てこれ! うさぎのワッペン、今度は毛並みに白いモコモコつけてみたんだ〜! 立体感、あるでしょ?」
「……どんどん厚くなってるね。服につけるには限界がありそう」
律が冷静にツッコむと、さゆりがふふっと笑った。
「でも、かわいいよ。あったかそうだし」
「でしょでしょ? この前はこたつで寝落ちしながら作ったから、たぶんぬくもりがこもってる」
そんなふうに、今日もにぎやかに手を動かしていたとき。
──コンコン。
部室のドアがノックされた。
「失礼します。生徒会です。文化部展示のご案内、持ってきました」
書類を手渡されたさゆりが、そのまま声に出して読み上げる。
「“12月末、校内で文化部合同の展示を行います。各部から展示参加を募集します”……だって」
「おお! 展示か〜!」
ゆらは、勢いよく身を乗り出した。
「じゃあさ、私たちの作品をバーンって並べてさ! ぬいぐるみとかワッペンとかさ、もう、机の上が“もふもふ祭り”みたいな感じに!」
「……それだけだと、たぶん伝わらないと思うよ」
さゆりが、ゆっくりと首を振る。
「手芸って、触ってもらえないとわかりにくい部分あるし、ただ置いても、“どうしてこの形なの?”とか、“何が面白いの?”って思われるかも」
「むむっ……でも、見たらなんとなく伝わるんじゃない?」
自信満々なゆらに対して、律は指先で書類をトントンと叩いた。
「“展示の際は、作品の紹介文や活動の説明も一緒にお願いします”って書いてある」
「紹介文……ってことは……言葉、書くの?」
ゆらの眉がぴくっと跳ねた。
「うぅ〜〜、それ苦手なんだよなぁ。説明とか、レポートとか、そういうの……」
しゅんとした彼女を見て、さゆりは少し困った顔で笑う。
「でも、展示って、プレゼンなんだよね。わたしたちが“これ、面白いでしょ!”って伝えるための……たぶん、そういう場なんだと思う」
ゆらは、机の上のぬいぐるみを見つめる。
ボタンの目、少し曲がった耳、でも柔らかそうな生地。全部、自分が“作りたい”って思ったから生まれたものたちだ。
「……なんでこれ作ったんだろ」
ぽつりとつぶやいた。
律が目を上げる。
「え?」
「いや、なんか……作ってるときはさ、“こうしたい!”って気持ちだけで縫ってたけど……いざ説明しようと思うと、“なんでそうしたいと思ったのか”って、言葉にできないなって」
静かな沈黙が、3人の間に流れる。
でも、それを破ったのは、ゆらの小さな声だった。
「でも……うーん。誰かが見て、“なんか面白いね”って思ってくれたら、それって、ちょっとうれしいかも」
「……うん」
さゆりが、ゆっくりとうなずいた。
「その気持ち、書けるかもよ」
「伝えたいことがあるなら、ちゃんと形になる。手芸と同じ」
律のその言葉に、ゆらは顔を上げた。
展示。それは作品を見せるだけじゃない。
作った理由、感じたこと、その全部を届けるための“もうひとつの手仕事”。
ゆらは、机の上のぬいぐるみにそっと触れながら、心の中でつぶやいた。
──説明、苦手だけど。
──でも、やってみようかな。“伝える”って、なんか面白そうだし。




