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糸と針と、わたしたち。  作者: 南蛇井
高校3年生

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132/150

第132話「評価されるって、だれかとつながること」

休日の午前。

制服ではなく、それぞれの私服に身を包んだ三人は、駅前の小さなギャラリーの前に立っていた。


「……ここかぁ。なんか、緊張するね」

ゆらが小さく呟くと、さゆりがうなずいた。「うん。展示会って、もっとこう……堅いイメージだったけど。入り口に花とか飾ってあって、ちょっと可愛い」


「じゃあ、行こっか」

律が一歩、足を踏み出す。三人はゆっくりとガラス扉を押し開けた。


館内には、柔らかな照明と、静かな空気。

壁には、色とりどりの布作品、立体刺繍や編み物、パッチワークアートが並んでいた。


「これ、学生の部門かな?」

ゆらが目を止めたのは、見覚えのある、自分の作品。

カラフルなフェルトと糸でつくった“空想の鳥”たちが、楽しげに並ぶ。鮮やかな色彩に、立ち止まる人が数人。


そのうちの一人が、ふと、呟いた。


「……なんか、元気出るなぁ」


ゆらは、思わず息をのんだ。

目の前にいるのは知らない人。けれど──その人の気持ちに、自分の“作ったもの”が触れた。


「……届いたんだ」

呟いた声は、誰にも聞かれなかったけれど。

心の中に、ぽっと灯るものがあった。


「こっち、さゆりの刺繍だよ」

律が指さしたのは、細い紐で吊るされた、20枚の布。

それぞれに、小さな言葉が、刺繍で綴られていた。


『だいじょうぶ』

『忘れてないよ』

『そのままでいい』


その前に、一人の女性が立ち止まり、しばらく目を閉じた。


「……あ」

さゆりは声を上げかけて、止めた。


その人が、何を思っていたのかはわからない。

でも──確かに、“読んでくれた”。“立ち止まってくれた”。


「静かに届いた、んだね……」

つぶやくさゆりの表情は、少し照れくさそうで、でも優しくて。


展示会の一角には、“作品制作ノート”の紹介スペースもあった。


「……これ、律のノート?」

ゆらが気づいて声をかけると、律は目を見開いた。


「まさか……展示してくれてるとは……」


緻密な図解、構造設計、配色試案。ページの端には、気持ちを書き留めたメモ。


『なぜこれをつくるのか、問うてみる』

『構造の中に感情を織り込みたい』


一人の来場者が、そのノートに目を通し、ポツリとつぶやいた。


「……こういう考え方、好きかも」


律の頬がわずかに紅くなる。

「……評価、されたわけじゃないけどさ」

「うん?」

「でも……見てくれて、何かを思ってくれる人がいる。それって、たぶん──」


「“つながった”ってことじゃない?」

さゆりが、律の言葉をそっと補った。


ギャラリーを出ると、冷たい風が吹き抜けた。


「さむっ!」

ゆらが慌ててマフラーを巻き直す。

でも、表情は笑っていた。


「寒いけど、なんかあったかいね」

「賞とか、順位じゃなくて……つながれたってこと、かな」

律も、ポケットに手を入れながら、空を見上げる。


「また、つくりたくなってきた」

さゆりが小さく笑った。


三人は、肩を並べて歩き出す。

風は冷たいけれど、胸の奥には、小さな火が灯っていた。

評価されるって、だれかとつながること。

それはたぶん、少し照れくさくて、でもとても、嬉しいことだった。


次の作品が、また誰かの心に届くように。

静かだけれど、あたたかな歩みは、まだ続いていく。

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