第131話「開封──わたしたちに届いたこと」
放課後の部室は、いつもより少しだけ緊張感が漂っていた。
普段なら、ゆらが元気に歌を口ずさみながら裁縫道具を広げ、律が静かに机に向かい、さゆりが遠慮がちに窓際に座る──そんな風景が繰り広げられる場所。でも、今日は違う。
机の上に置かれた一通の封筒が、部屋の空気をぴんと張り詰めさせていた。
「……じゃあ、開けるね」
ゆらがそっと言って、封筒を手に取った。思ったよりも指先が震えていて、自分でもびっくりする。
隣で律が腕を組み、眼鏡を押し上げる。「べつに、結果がすべてじゃないけど……やっぱり、気になるね」
「うん……」と、さゆりも小さく頷いた。声は小さくても、視線は真剣だ。
ぺり、と封筒の口が開く音。
封筒の中から、印刷されたA4の通知用紙が一枚、ぬるりと滑り出た。
その瞬間、三人の時間が止まった。
「えっと、まずは……」ゆらの声がかすれる。「優秀賞、かがやき高校・手芸部──“風刺しゅう記”・西園ゆら」
「え、わたし……?」
信じられない、という顔をしていたが、一拍置いてから跳ねるように立ち上がった。
「やったぁーっ!!」
部室に響き渡る歓声。ゆらは封筒を両手で高く掲げて、ぐるぐるとその場で回った。
「わーっ、うそ、まじで!? わたしの名前載ってる、ほんとに!? 見て見て律ちゃん、さゆりちゃんっ!」
「……見えてるよ」と律が苦笑いする。「おめでとう、ゆら」
「すごいよ、ゆらちゃん……ほんとに」と、さゆりも拍手を送った。
「で、でもね、次もあるの。審査員特別賞──“静かな言葉たち”・宮坂さゆり」
「……え?」
今度は、驚いたのはさゆりだった。
「わたし、特別……? こんな、ちっちゃい布に、ちまちまってしただけの……」
「それが特別だったんじゃない?」と律が優しく言った。
「うんうん、あれめっちゃ素敵だったもん!」とゆらも頷く。「あれ見て泣きそうになってた人、文化祭のときいたよ?」
さゆりは頬を赤く染め、でも、どこか安心したように微笑んだ。
「ありがとう……なんだか、ちょっと、信じられないけど。うれしい」
「……あとは、律ちゃんだね」
ゆらが慎重に、もう一段下に目を落とす。ほんのわずか、空気が重くなる。
律は、何も言わずに結果用紙を覗き込む。
「……うん、やっぱり、入選はしてなかった」
「律ちゃん……」さゆりが小さく言う。
でも律は、わずかに肩をすくめて笑った。
「悔しくないって言えば、ウソだけど。でも、納得してるよ。今の私には、まだ届かなかったってこと。それだけ」
ゆらが言葉を詰まらせる。
そんな中で律は、ゆっくりと部室のポットにお湯を注ぎ、3つのカップスープを用意していた。
「ほら、どうせなら、あったかいものでも飲んでから解散にしよう」
「……律ちゃん、優しい」とさゆりが笑い、ゆらも「ありがと〜っ」と飛びつくように椅子に座る。
カップスープの湯気が、ふわりと立ち上り、三人の真ん中に小さな円を描いた。
「賞は……うれしいけどさ」と、ゆらがふとつぶやく。「やっぱり、それだけじゃないんだよね。うちらの部活って」
「そうだね。たのしんで作った時間とか、誰かが立ち止まってくれたこととか──」と律が続ける。
そして、さゆりがカップを両手で包み込みながら、静かに言った。
「わたしたちの“作った気持ち”が、ちゃんと届いてたってことだよ」
その言葉に、誰も何も返さなかった。ただ、三人は同時に、小さな笑顔を浮かべた。
外はもう日が暮れて、部室の窓の外に冬の夕焼けが滲んでいた。




