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糸と針と、わたしたち。  作者: 南蛇井
高校3年生

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130/150

第130話「賞なんていらない?──本音と強がり」

朝の教室は、いつもよりすこしだけ浮ついていた。


「手芸部、コンクール出してたんでしょ? なんか結果届いたらしいよ」

「えっ、誰か入賞したの? すごーい!」


 そんな声が、教室のあちこちから聞こえてくる。


 ざわつきの中心にいるのが、まさか自分とは思われていないけれど。

 その空気は、妙にそわそわしていて、ゆらは耳だけが敏感に反応してしまっていた。


(……ああ、ついに来たんだ)


 部室の机に、ぽんと置かれていた白い封筒──それが、きっとコンクールの結果通知。

 けれど、誰が開けるとも決まらず、まだ中身は見られていない。


「へぇ、誰か賞とったの? いいじゃん、すごいすごい」


 ゆらは何気ないふりをして、笑って言った。

 でも、胸の奥が少しだけざわついているのを、自分でも感じていた。


「でもまあ、わたしはどうでもいいけどね? 賞なんてさ、別にいらないし。楽しければそれでいいっていうか~」


 軽口を叩くみたいに言葉を並べる。

 周りの友達は、ちょっとだけ気まずそうに笑って、話題を変えていった。


(……賞なんか、別に)


 そう言ってみたけれど、自分でも、その言葉がどこかウソっぽいことに気づいていた。



 その日の帰り道。

 いつもならまっすぐ家に帰るところを、足は自然とコンビニへ向かっていた。


 部室では誰も封筒を開けなかった。

 誰が、どんなふうに入賞したのか、それとも誰もしていないのか──結局、わからないまま。


 夕方の光がコンビニのガラスに反射して、きらきらと揺れている。

 ゆらは、缶ジュースを一つだけ買って、店先のベンチに腰を下ろした。


 しゅっと音を立てて炭酸を開ける。

 その音が、胸の奥のもやもやを少しだけ逃がしてくれるようだった。


 ──そのとき。


「……あれ? ゆらちゃん?」


 聞き覚えのある声が、すぐ横から届いた。


「かなえ先輩?」


 振り返ると、自転車を押したかなえが立っていた。

 制服の袖をまくって、部活帰りらしい疲れた笑顔。


「ここ、座ってもいい?」


「……はい、どうぞ」


 二人並んで、夕暮れのコンビニ前に座る。


「……結果、来たんでしょ? コンクールのやつ」


「……うん。でも、誰もまだ開けてなくて。なんか、怖いっていうか、気まずいっていうか……」


「ふふ、あるある」


 かなえ先輩は苦笑して、ジュースの缶を指先で軽く転がす。


「で、ゆらちゃんは? 入賞、気になる?」


「……うーん。まあ、ちょっとは……」


 答えてから、慌ててかぶせるように言葉を足した。


「でも、別にわたし、賞なんかいらないし! ただ楽しく作れたらそれでよかったし!」


 先輩は何も言わず、ふわっと目を細めた。


「うん、わたしもね。最初はそう思ってた」


「え?」


「“賞なんていらない”って。自分の好きなもの作れればそれでいい、って。でも──」


 少しだけ視線を落として、言葉を継ぐ。


「“自分のこと、すごいって思ってくれた誰かがいる”ってさ……それって、意外と、支えになるんだよね」


 静かな声だった。

 でも、その言葉は、すごく真っ直ぐで。


 ゆらは、手の中の缶を見つめたまま、ぽつりとつぶやいた。


「……ちょっとくらい、うれしいかも」


 先輩はにこりと笑った。


「だよね。ちょっとくらい、うれしくていいんだよ」


 夕焼けが、まるで何もかもを包み込むように、ベンチのふたりを照らしていた。



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