第130話「賞なんていらない?──本音と強がり」
朝の教室は、いつもよりすこしだけ浮ついていた。
「手芸部、コンクール出してたんでしょ? なんか結果届いたらしいよ」
「えっ、誰か入賞したの? すごーい!」
そんな声が、教室のあちこちから聞こえてくる。
ざわつきの中心にいるのが、まさか自分とは思われていないけれど。
その空気は、妙にそわそわしていて、ゆらは耳だけが敏感に反応してしまっていた。
(……ああ、ついに来たんだ)
部室の机に、ぽんと置かれていた白い封筒──それが、きっとコンクールの結果通知。
けれど、誰が開けるとも決まらず、まだ中身は見られていない。
「へぇ、誰か賞とったの? いいじゃん、すごいすごい」
ゆらは何気ないふりをして、笑って言った。
でも、胸の奥が少しだけざわついているのを、自分でも感じていた。
「でもまあ、わたしはどうでもいいけどね? 賞なんてさ、別にいらないし。楽しければそれでいいっていうか~」
軽口を叩くみたいに言葉を並べる。
周りの友達は、ちょっとだけ気まずそうに笑って、話題を変えていった。
(……賞なんか、別に)
そう言ってみたけれど、自分でも、その言葉がどこかウソっぽいことに気づいていた。
*
その日の帰り道。
いつもならまっすぐ家に帰るところを、足は自然とコンビニへ向かっていた。
部室では誰も封筒を開けなかった。
誰が、どんなふうに入賞したのか、それとも誰もしていないのか──結局、わからないまま。
夕方の光がコンビニのガラスに反射して、きらきらと揺れている。
ゆらは、缶ジュースを一つだけ買って、店先のベンチに腰を下ろした。
しゅっと音を立てて炭酸を開ける。
その音が、胸の奥のもやもやを少しだけ逃がしてくれるようだった。
──そのとき。
「……あれ? ゆらちゃん?」
聞き覚えのある声が、すぐ横から届いた。
「かなえ先輩?」
振り返ると、自転車を押したかなえが立っていた。
制服の袖をまくって、部活帰りらしい疲れた笑顔。
「ここ、座ってもいい?」
「……はい、どうぞ」
二人並んで、夕暮れのコンビニ前に座る。
「……結果、来たんでしょ? コンクールのやつ」
「……うん。でも、誰もまだ開けてなくて。なんか、怖いっていうか、気まずいっていうか……」
「ふふ、あるある」
かなえ先輩は苦笑して、ジュースの缶を指先で軽く転がす。
「で、ゆらちゃんは? 入賞、気になる?」
「……うーん。まあ、ちょっとは……」
答えてから、慌ててかぶせるように言葉を足した。
「でも、別にわたし、賞なんかいらないし! ただ楽しく作れたらそれでよかったし!」
先輩は何も言わず、ふわっと目を細めた。
「うん、わたしもね。最初はそう思ってた」
「え?」
「“賞なんていらない”って。自分の好きなもの作れればそれでいい、って。でも──」
少しだけ視線を落として、言葉を継ぐ。
「“自分のこと、すごいって思ってくれた誰かがいる”ってさ……それって、意外と、支えになるんだよね」
静かな声だった。
でも、その言葉は、すごく真っ直ぐで。
ゆらは、手の中の缶を見つめたまま、ぽつりとつぶやいた。
「……ちょっとくらい、うれしいかも」
先輩はにこりと笑った。
「だよね。ちょっとくらい、うれしくていいんだよ」
夕焼けが、まるで何もかもを包み込むように、ベンチのふたりを照らしていた。




