第128話「つくること、見せること、たのしむこと」
主役:ゆら・律・さゆり(全員回)
舞台:文化祭当日、手芸部展示スペース
体育館の隅、3年2組の教室を借りた「手芸部展示室」には、朝から少しずつ人が集まりはじめていた。
「……あれ、これって、刺繍?」
入口付近で立ち止まった生徒が、作品に近づいて見入っている。
「うわ、細か……え、これぜんぶ糸なの?」
「意味わかんないけど、なんか好き……この色の重ねかたとか」
「展示っていうより、美術館っぽい……」
会話は途切れがちに、でもどこかワクワクした声で。
手芸部の3人――ゆら、律、さゆりは、教室の一角に並んでその様子を見守っていた。
ゆらの作品は、まるで動き出しそうなカラフルな魚たちが泳ぐ刺繍アート。
律は、ピンと張った糸と抽象的な色面構成による“図形”の刺繍作品。
さゆりは、吊るされた「ことばの布」。風にそよぎながら、訪れた人にそっと寄り添う。
「……ちゃんと伝わってるのかな」
ゆらがぽつりとつぶやく。
「うーん。でも、見てる人の顔……わたし、好きだな」
さゆりが、少し照れながら言った。
「伝わる、ってたぶん“ひとつの正解”じゃないよね。バラバラなままでいいというか」
律のその言葉に、ゆらは目を丸くして、
「わかる! “意味わかんないけど好き”って、めっちゃ嬉しくない?」
と笑った。
来場者は、一つひとつの作品の前で足を止め、時にはしゃがみ込み、時に首を傾げる。
誰かは律の幾何学刺繍を見て「なんか理科室の図みたい」と言い、誰かはさゆりの“布のことば”を見て、黙って写真を撮った。
なかには「私もやってみたい!」と目を輝かせて話しかけてくる後輩もいた。
展示の終盤、教室には穏やかな光が差し込んでいた。
「……コンクールとは、違うね」
律が言った。
「うん。評価されるためじゃなくて、ただ“見せる”って、不思議な気分」
さゆりが、吊るされた布をそっと指で押して、ゆらゆら揺らす。
「でもさ、なんか……楽しくなかった?」
ゆらが言った。
「わたし、最初すっごいドキドキしてたのに、いつの間にかニヤニヤしちゃってて……」
3人は顔を見合わせて、ふふっと小さく笑った。
来場者が引いたあとの静かな展示室で、ゆらはくるりと回って、言った。
「見てもらうの、ちょっとドキドキ……でも、めっちゃ楽しかった!」
それは、少し照れくさくて、でもまっすぐな言葉。
律もさゆりも、その気持ちにうなずいた。
たぶんそれが、今の彼女たちにとっての“答え”だった。




