表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
糸と針と、わたしたち。  作者: 南蛇井
高校3年生

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

125/150

第125話「評価されるって、どういうこと?」

主役:律

舞台:部室、自室(夜の場面)


部室に響くのは、静かな針の音だけだった。


机に向かう律の指先は、寸分の迷いもなく布の上を走る。無駄を削ぎ落としたようなその動きは、まるで定規でなぞるような正確さと緊張感に満ちていた。


──コンクール応募まで、あと三日。


図案はすでに仕上がっていた。ステッチのバリエーションも、色のグラデーションも、納得いくものを選んだ。なのに。


「……足りない気がする」


律はそっと手を止めた。


完成に近づくほど、心の中に黒い靄のような不安が広がっていく。

“評価される”って、どういうこと?

“評価されるために刺繍する”って、自分にとって、どういう意味?


机の上に広げた作品は、整っている。でも……何かが、足りない。


「誰かに見せるものなのに、自分だけで作ってる気がするの、変だよな……」


律はつぶやいて、視線を落とす。

ノートの端に書き溜めていた言葉たちが目に留まった。


──“光は、手のひらの内側からこぼれる”

──“刺せば刺すほど、わたしが浮き彫りになる”

──“不器用な光”


ページの隅っこにあった、その言葉にふと、針を持つ手が止まる。


「……“不器用な光”か」


その瞬間、胸の奥がかすかに震えた。


きっと、自分の作品は完璧じゃない。見る人によっては、技術不足だと思われるかもしれない。

それでも――この刺繍には、言葉がある。気持ちがある。


その夜、律は遅くまで作品に向き合いながら、初めて“自分の作品にタイトルをつける”ということに挑んだ。


朝。眠い目をこすりながら部室に入ると、ゆらがコーヒー牛乳片手に待っていた。


「おはよー……って、律ちゃん、目の下クマ!」


「夜更かししてたから……ちょっと、考え事してて」


「もしかして、コンクールのこと?」


律は少し間を置いて、こくりとうなずいた。


「……自分の作品、ちゃんと“伝わる”か不安だった。でも……」


彼女は小さく笑った。


「ちょっと楽しみになってきた。“不器用な光”ってタイトル、つけたんだ」


ゆらがぱちぱちと手を叩く。


「すてき! わたし、それだけで見たくなるもん」


「ほんと?」


「うん! だって、“不器用な光”って……律ちゃんっぽい」


律は驚いてから、ふっと肩の力を抜いた。


──伝わるかもしれない。

たとえ全部じゃなくても、誰かに、何かが。


ラストナレーション:

評価されるためじゃない。伝えたくて作ることが、もしかしたら“評価”に変わるのかもしれない。

律の作品は静かに語りはじめる──言葉よりもゆっくりと、けれど確かに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ