第123話「はみだすって、おもしろい」
主役:ゆら
舞台:部室、学校帰りの文房具屋
手芸部に入ってもう数ヶ月。
ゆらは最近、図案通りに刺すことに違和感を抱き始めていた。
「ちゃんとやってるはずなのに、なんか、思ってたのとちがうんだよなぁ……」
いつもの部室で、淡々と刺しては止まり、刺しては首をかしげる日々。
そんなある日。学校帰りに、ふと立ち寄った小さな文房具屋。
ふだんは寄らないような、どこか古めかしいお店だった。
中をのぞいていると、色とりどりのミシン糸が視界に飛び込んできた。
「わ、なにこれ……」
刺繍糸では見かけないような、ビビッドなネオンカラーや、微妙に混じったグラデーションの色糸。
光沢があって、どこか軽やかで、思わず引き寄せられる。
(刺繍には向いてないのかもだけど……でも、なんか刺してみたい)
ゆらは衝動的に、何本かのミシン糸を購入した。
帰宅後。無地の布に、試しに縫ってみる。
針に通すのも少し手間取るし、細くて撚れやすい。
でも、だからこそ、偶然のゆらぎが生まれた。
糸が勝手に曲がって、絡まって、ふいに弾けるような線になる。
描いたわけじゃないのに、そこに「動き」が宿る。
「思ったより、ぐちゃぐちゃ……でも、楽しい」
次の日、部室にその布を持っていくと、さゆりが目をまんまるにして言った。
「ゆらちゃんの線って、“落書き”みたいで、いいね」
「えっ……いいの? これ、むちゃくちゃだけど」
「むちゃくちゃだけど、“ゆらちゃん”って感じする」
その言葉で、ゆらの中に何かが弾けた。
整ってなくてもいい。
図案に収まらなくてもいい。
むしろ、はみだしてるから、おもしろい。
自由な色と線がぶつかり合い、布の上に小さな爆発のように散っていく。
ゆらの“アブストラクト刺繍”が、ここから始まる。
ラスト台詞(ゆら・独白)
「きれいじゃない。でも、なんか、うれしい」




