第122話「誰かのひらめきが、私を変える」
主役:律/さゆり(対話形式) / 舞台:部室、自宅のノート整理シーン
「……また、いつも通りになっちゃった」
律は小さく呟いて、刺繍枠をテーブルに置いた。
整っていて、技術的には間違っていない。けれど、なぜか胸がしんとするような物足りなさがある。
(どうしてだろう。……“正しい”のに、私じゃない)
その日の午後。部室で、ふと隣のさゆりのノートを覗いた。
糸の見本帳に書き添えられた、詩のような言葉。
「夜に落ちていくような、静かな青を探してる」
その一文に、律の目が止まった。
「これ、さゆりの刺繍のモチーフ?」
「うん。……そんなつもりで作ってた。言葉にすると変かもだけど」
さゆりはすこし照れくさそうに笑う。
「どうして、そんな風に言葉を布にできるの?」
そう尋ねる律に、さゆりは真っ直ぐに答えた。
「ただ、“思ったこと”を、形にしようとしてるだけ。ちゃんとしたものじゃなくても、まずは言葉にしてみるの」
律はしばらく黙ったまま、さゆりの図案と刺繍を見つめていた。
その夜。律は自室の机にノートを広げる。
スケッチの隅に、感情のメモがいくつも書き込まれていた。
「焦り」「ちょっとした安心」「不安のなかの明かり」……どれも、今の自分のこと。
(……形にしなきゃ、って思いすぎてた)
“完成”に向けて、正しく作らなきゃ、とずっと思っていた。
でも、形より先に、気持ちを抱きしめてもいいのかもしれない。
律は小さく息を吐いて、ひとつのページを開いた。
そして、そこから新しい図案を描き始める。
テーマは「迷いと希望」。
ぼやけた輪郭を持った淡い糸を使い、グラデーションで感情を刺繍する。
言葉を、そのまま模様にするように。
ラスト台詞(律・独白)
「誰かのひらめきが、自分を変えることって、あるんだね」




