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糸と針と、わたしたち。  作者: 南蛇井
高校3年生

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121/150

第121話「模様の中に隠れてる」

主役:あおば / 舞台:部室、校舎裏のベンチ


夏が終わりに近づき、部室の空気もどこか落ち着いてきた。

けれど、あおばのノートはにぎやかなまま――いや、むしろごちゃついていた。


「……なんか、スカスカ……」

図案を描いてはため息。模様がうまくまとまらない。空間が足りないような、でも詰めすぎてるような。


──形を重ねるほど、線が重くなっていく。


「はぁ……」

あおばは筆記具を置いて、窓の外に目をやった。

その視線が、不意に止まる。


校舎裏の壁に這う蔦。濃い緑と淡い緑が交じり合い、絡まりながら、でもどこか整っている。

乱雑なようでいて、絶妙な余白がある。風に揺れて、動きがある。


「……描いてみようかな」


ノートを持って部室を出て、校舎裏のベンチに腰掛ける。

静かな午後、蝉の声の遠くなった空気のなか、あおばは黙って蔦をスケッチし続けた。


葉と葉の間にある「空白」も、そのまま描く。

光の入り方、葉の重なり具合、ちょっとした“抜け”が、模様に柔らかさをもたらしていた。


「自然の形って……すごくちゃんとしてる」


部室に戻り、あおばはスケッチをもとに刺繍図案を再構成した。

ぎちぎちに詰めず、でも抜けすぎず。風に揺れる蔦の流れを意識して。


偶然空けた部分に糸を入れずにいたら、そこが逆に模様全体を引き立てていることに気づく。


「……そっか、抜けてもいいんだ」


夜、誰もいない部室で一人、静かに縫い始める。

自分の線のゆらぎと、自然の流れが重なるように。


ラスト独白

「きれいな模様って、描くよりも“気づく”ものなのかもしれない」

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