第121話「模様の中に隠れてる」
主役:あおば / 舞台:部室、校舎裏のベンチ
夏が終わりに近づき、部室の空気もどこか落ち着いてきた。
けれど、あおばのノートはにぎやかなまま――いや、むしろごちゃついていた。
「……なんか、スカスカ……」
図案を描いてはため息。模様がうまくまとまらない。空間が足りないような、でも詰めすぎてるような。
──形を重ねるほど、線が重くなっていく。
「はぁ……」
あおばは筆記具を置いて、窓の外に目をやった。
その視線が、不意に止まる。
校舎裏の壁に這う蔦。濃い緑と淡い緑が交じり合い、絡まりながら、でもどこか整っている。
乱雑なようでいて、絶妙な余白がある。風に揺れて、動きがある。
「……描いてみようかな」
ノートを持って部室を出て、校舎裏のベンチに腰掛ける。
静かな午後、蝉の声の遠くなった空気のなか、あおばは黙って蔦をスケッチし続けた。
葉と葉の間にある「空白」も、そのまま描く。
光の入り方、葉の重なり具合、ちょっとした“抜け”が、模様に柔らかさをもたらしていた。
「自然の形って……すごくちゃんとしてる」
部室に戻り、あおばはスケッチをもとに刺繍図案を再構成した。
ぎちぎちに詰めず、でも抜けすぎず。風に揺れる蔦の流れを意識して。
偶然空けた部分に糸を入れずにいたら、そこが逆に模様全体を引き立てていることに気づく。
「……そっか、抜けてもいいんだ」
夜、誰もいない部室で一人、静かに縫い始める。
自分の線のゆらぎと、自然の流れが重なるように。
ラスト独白
「きれいな模様って、描くよりも“気づく”ものなのかもしれない」




