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糸と針と、わたしたち。  作者: 南蛇井
高校3年生

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120/150

第120話「誰にも見えなくても、今はまだ」

主役:さゆり(+部室に集まる全員)

舞台:部室(夏休みの終盤)


午後三時。

陽射しが傾き始めたころ、校舎の奥にある手芸部の部室には、静けさが漂っていた。


ミシンの音は鳴っていない。

エアコンもないこの部屋を、扇風機がゆっくりと巡回する。


パタパタという風の音、シャッという刺繍糸の擦れるかすかな音、

そして、誰かが落とした消しゴムが机から転がって床に落ちた音――それだけ。


誰も喋っていない。

でも、不思議と息苦しくはなかった。


さゆりは手元の刺繍枠から目を離し、ちらりと周囲を見渡す。

律は図案と布を交互に見つめながら、細かく糸を動かしていた。

ゆらは、集中しすぎて首がかくんと傾き、慌てて姿勢を直す。

あおばは何かを数えているようで、小さく指を動かしながら目を細めている。

みんな黙っていて、でも、同じ空気の中にいた。


そんなときだった。

ふと、ゆらがぽつりとつぶやく。


「ここって……ちょっと、静かすぎますね」


その言葉に、律が顔を上げて笑う。

「音楽でもかけようか?」


部室にはスピーカーもある。普段は好きなアーティストをかけたりもしていた。

けれど、そのとき、さゆりは小さく首を振った。


「……今の“静かさ”が、好きかも」


風の音がまた、ふわりと巡っていく。


誰もそれに反論しなかった。

ただ、うん、というように、みんなが目を伏せて、手元に戻っていった。


完成には、まだまだ遠い。

誰の作品も、途中で、バラバラで、形になっていない。


だけど、ひとつだけ確かだった。


それぞれが、自分の手で、自分のペースで、何かを重ねている。

誰にも見えない、けれど、ここにある。

この静けさのなかで――積み重なっていく“いま”が、あった。


ラストモノローグ・さゆり

「誰にも見えなくても、今はまだ……だけど、それでいい」

この静けさを、私はきっと、ずっと忘れない。

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