表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
糸と針と、わたしたち。  作者: 南蛇井
高校3年生

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

114/150

第114話「私、何が好きだったっけ?」

「みんな、好きなお菓子って何?」


 放課後の部室、まこが机にぽんと袋を広げた。

 カラフルなパッケージのスナックや駄菓子、焼き菓子がころころと転がる。


「あ、これ昔よく食べたやつー!」「私、これ苦手だったけど今は好きかも」


 わいわいと楽しげな声が交わされる。

 その輪の中で、さゆりは一言も発せずにいた。


(……私、何が好きだったっけ?)


 昔、夢中になったもの。

 無意識に手を伸ばしていた味、色、素材、形。


 今、そう聞かれても、なぜか指先が動かない。

 言葉も、浮かんでこない。


 次の日の昼休み。

 購買帰りの廊下で、チョコパン片手に歩いていたさゆりは、偶然まこと並んだ。


「一緒に食べませんか? ……ベンチ、空いてますし」


 まこの誘いで、ふたりは屋上裏の小さなベンチに腰を下ろした。

 風が通り、遠くで部活の声が聞こえる。


 パンの袋を開けながら、さゆりがぽつりとつぶやいた。


「ねえ、まこちゃん。……私、昔は何が好きだったんだろうって、考えちゃってさ」


 まこはチョコパンを口に運び、もぐもぐと咀嚼した後、にこりと笑う。


「“好き”って、変わってもいいと思いますよ」


「変わっても……いい?」


「うん。あのとき好きだったこと、今も続けてることってあんまりないかも。でも、“好きだった気持ち”はちゃんと覚えてる。あのときのワクワクとか、夢中になった感覚とか」


 さゆりはまこの横顔を見る。

 何気ない言葉の奥に、ちゃんとした芯があった。


 自分はどうだっただろう。

 小さなことで笑って、小さなもので感動していた頃。

 いつから、“ちゃんとしなきゃ”が邪魔をするようになったのだろう。


 ベンチの足元に、風がそっと吹き抜ける。


 午後の授業が終わり、夕方。

 誰もいない自室で、さゆりは本棚の脇の引き出しを開けた。


 埃の積もった箱をひとつ、そっと取り出す。

 中には、色褪せた糸、子ども用の針山、そして最初に買ってもらった丸枠刺繍枠。


「あった……」


 記憶の底に沈んでいたものが、ふいに浮かび上がる。

 あのとき、これで花を縫おうとして、めちゃくちゃになって、でも笑っていたっけ。


 まだ“好き”かどうかは、わからない。

 でも、“好きだった”自分を思い出せた。


 小さな箱の中に、過去の自分の「きっかけ」が眠っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ