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糸と針と、わたしたち。  作者: 南蛇井
高校3年生

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111/150

第111話「進まない日も、針は動いてる」

主役:律・まこ

舞台:図書室・部室・購買前


 図書室の窓際、午後の光がほどよく差し込む静かな場所。

 その机に広げられた布と糸、隣に積まれた参考書の山。


 律の手は止まっていた。


「……違う」


 刺したばかりの糸をそっと引き抜く。

 完璧じゃない。線が少し歪んでる。色の選び方も、しっくりこない。

 もう何度も、同じところを縫ってはほどいている。


 少し離れた席で、まこも針を持ちながら、じっと動かずにいた。

 昨日はもっとスイスイ作れていたのに、今日はなぜか、布の上の図案がぼやけて見える。


 夕方。部室に戻った二人は、それぞれ自分の席で作業を続けていた。

 しかし、音も立てず、時間だけが過ぎていく。


「……ねえ」

 律が不意に声を上げる。

「わたしたち、空回ってない?」


 そうつぶやいて、机に突っ伏した。


 まこはしばらく黙ってから、少しだけうつむいて、ぽつり。

「でも……律先輩が、毎回きちんと直してるの、私……ちょっと、嬉しい」


 律が顔を上げる。


「え?」


 まこは気まずそうに笑いながら言う。

「だって、“完成品”じゃなくて、“納得いくまで作る人”がいるって……頼もしいというか」


 律は、目を見開いて、少し照れたように笑った。

 その言葉で、自分が「止まってる」と思っていた時間に、ちゃんと意味があったのだと気づく。

 確かに針は動いていた。心の奥で、少しずつ、少しずつ。


 そのあと、二人で購買前のベンチに移動して、パンを分け合う。


「完成って、たぶんゴールじゃないんだよね」

 まこが、チョコパンを口に運びながらつぶやく。

「なんか……“完成するまでの時間”のほうが、あとから思い出す気がする」


 律はその言葉に、しばらく何も言わず、空を見上げた。


 やがて、小さく笑って――。


「じゃあさ、もっとたくさん悩もう。ね?」


 まこが笑顔でうなずいた。

 二人の時間はゆっくりだけど、確かに前へ進んでいる。



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