表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
糸と針と、わたしたち。  作者: 南蛇井
高校3年生

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

108/150

第108話「“先輩”って、なんだろう」

放課後の教室。

 黒板に描かれたラフな下書きの前で、ゆらが色鉛筆を握っていた。


「ここの文字、少し丸っこくして、下にこの子たちの写真、入れてみるのはどうですか?」


「かわいい! あ、それなら余白こっちに残したほうがいいかも!」

 隣のまこも身を乗り出すようにして指を差す。


 ふたりのやりとりは軽やかで、にぎやかで、どこか眩しかった。


 その様子を見ながら、律は小さく笑った。

「……あの頃の私より、ずっとすごいかも」


 机の上に散らばる色鉛筆や、ラミネート用の試作カード、飾りの紐。どれも手慣れた先輩がやることではない。けれど、それをいま、あのふたりが楽しそうに自分のアイデアでどんどん進めている。


 教室の片隅、後輩たちに見つからないように、律が小声で言うと、

すぐ隣であおばもぽつりと本音をこぼした。


「いつの間にか、追い越されるかもって……ちょっと怖いよね」


 後輩の成長がうれしくないわけじゃない。

 でも、追いかけられることと、追い越されることの違いを、今になってひしひしと感じていた。


 そのとき、背後からふっと笑う声が聞こえた。


「でもそれって、ちゃんと“育ってる”ってことじゃない?」


 いとだった。


 彼女は、手に紙の束を持ったまま、二人の間に入ってきて軽く肩を竦めた。


「自分のやりたいこと、自分の頭で考えて動けるって、先輩に甘えるよりずっと難しいことだもん。誇っていいよ、あのふたりのこと」


「……そうだね」


 あおばが、少し間をおいて答える。


 だけどそのまま飲み込みきれずに、何かを探すように天井を見上げた。


 その日の夕暮れ。

 屋上で、あおばと律がフェンスにもたれて並んでいた。


 赤く染まる空。夏の始まりを予感させるような、生ぬるい風。


 沈黙が、思ったより心地よかった。


「ねえ、律先輩」


「ん?」


「“先輩”って、何なんだろうね」


 ぽつりとこぼした言葉に、律はふふっと笑った。


「ちょっとだけ先に悩んで、ちょっとだけ先に転んで、でも、ちょっとだけ先に立ち上がってる人……かな?」


「うわ、それめっちゃ律先輩らしい……」


 二人して、吹き出す。


 そのまましばらく、校舎の屋根の向こうに沈みかけた太陽を見つめていた。


「でもさ」と、律が言う。


「わたしたちにも、まだできることって、きっとあるよね」


 あおばはゆっくりと頷いた。


「うん。まだ終わってないし、終わりたくない」


 新しい春。新しい後輩。

 その成長に焦りながら、それでも見守る視線が“先輩”という言葉の正体だとしたら。


 それも、悪くないなと、あおばは思った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ