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糸と針と、わたしたち。  作者: 南蛇井
高校3年生

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101/150

第101話「この春、まだ“続いてる”」

咲き誇る桜の下を、制服のスカートがふわりと揺れた。


 新学期の朝。北星女子高校の校門前は、新入生の緊張と在校生の慣れた足取りが交差する春の舞台だった。そんな中を、いと、律、あおばの三人が並んで歩く。三人とも、真新しいクラス表を手に持ち、でもどこか浮ついていない落ち着きをまとっていた。


 「ふふ……ねえ、律」


 あおばがふとつぶやくように言った。


 「3年生って、もっと“終わりの人たち”って感じかと思ってた。でも、こうやって歩いてるとさ──まだ“続いてる”んだね、わたしたち」


 律は少し考えてから、鼻をかすかに鳴らす。


 「そりゃそうでしょ。今年、まだ1針も縫ってないもん」


 「なるほど、刺繍基準」


 いとが小さく笑った。3人のペースは、春の光に染まる道を静かに進んでいく。背後から新入生たちのざわめきが聞こえるたび、自分たちが「先輩」であることを思い出す。


 始業式の体育館。校長の話を半分寝ながら聞いていた去年とは違って、今年の三人は、話の区切りにしっかり拍手を送る側になっていた。

 その拍手の音に、自分たちの“立ち位置”の変化が、ふとしみてくる。


 ──変わったんだな。けど、まだ終わってない。


 式が終わり、担任の先生からの新年度ガイダンスも済ませたあと、三人は部室に向かう。


 窓を開けると、ほんのりとした木の匂い。埃っぽさの中に、どこか落ち着く空気があった。壁のコルクボードには去年の展示写真が数枚残っていて、見慣れた机の上には、誰かの忘れた糸巻きが転がっていた。


 「新入生向けの資料、まだ去年のままだね」


 いとがファイルを開きながら言うと、律が既に赤ペンを片手に項目を見直し始めている。


 「名簿は先生に確認したよ。今週末に仮配布できるって」


 「行事予定もあるよ。春コンテストと文化祭は、ほぼ日程変わらないって」


 3人の間に流れる空気は、あの1年前のぎこちない沈黙とはまるで違っていた。

 呼吸の合ったそのやり取りの中で、ふとあおばが、机の端に置いてあったノートに目を止めた。


 「あれ? このノート、去年の部活目標のやつ……“今年も、失敗上等”って書いてある」


 「なつかし〜、それ律が言い出したやつでしょ?」


 「いや、あれはあおばが失敗したときの言い訳だったのを、私が採用しただけ」


 「なんかひどいな〜……でも、なんかいいね、こういうの」


 あおばが、チョークを手に取った。部室の黒板に、白い音を立てて文字が刻まれる。


 『記録より、記憶に残るものを』


 「……これが今年の目標、でどう?」


 その言葉を見つめながら、いとが小さくうなずく。


 「うん。いいと思う。今年、私たちが最後に残すなら、きっと“数字”じゃない」


 「布と糸と、誰かの記憶」


 律がそうつぶやき、3人は静かに並んで黒板を見上げた。


 春は、もう始まっていた。

 そして、去年の続きが、たしかにここにある。

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