第7話 - 目覚めの兆し
滝の音が耳を埋め尽くす中、カイが剣を抜いた。ユウリは薙刀を構え、タカシは双剣を軽く握り直す。三人が緊張感に包まれる中、ソラは静かに彼らの動きを観察していた。
「行くぞ。」カイが短く言葉を放つと、全員が動き始めた。
カイが正面から距離を詰め、ユウリは薙刀の長さを活かして側面から牽制する。タカシは双剣を回転させながら、後方からソラの隙を狙う。三者が見事な連携で攻撃を繰り出すが、ソラはわずかな身のこなしで全ての刃を避けていく。
「……悪くない。だがまだ足りない。」ソラは軽く呟くと、巨大な日本刀を一振りした。その風圧だけでカイたちはたじろぐ。
カイはすぐに立て直し、剣を振り下ろしたが、ソラはその剣を刀の側面で受け止め、あっという間にカイを押し戻した。「力が均一じゃない。考えながら振らないと、隙を突かれるぞ。」
その間、ユウリは薙刀を下段から振り上げるように突き入れた。長柄武器のリーチを活かした攻撃に、ソラは一瞬身を引く。しかし、その動きも読んでいたかのように、刀の峰でユウリの薙刀を弾き返す。ユウリは踏み込みながらもう一撃を試みるが、ソラの反撃を受け、思わず後退する。
「やっぱり強いな……。」ユウリが息を整えながら呟いた。
その時、タカシが双剣で背後から攻撃を仕掛けた。彼の動きは速いものの、まだ経験不足が隠せない。ソラは振り返ることなく、刀を後ろに構えてタカシの一撃を受け止める。そして、軽く捌いてタカシをわずかに押し飛ばした。
「速さだけじゃダメだ。流れるような動きが必要だ。」ソラの声には、まるで指導者のような冷静さがあった。
その間にカイが再び接近する。その剣の刃が一瞬だけ淡く光るような、目に見えない変化が起こった。カイ自身はその変化に気づいていなかったが、ソラは微かに表情を変えた。
「ほう……。」彼は小さな声で漏らしながら、カイの剣を刀で受け止めた。
次の瞬間、カイの剣がさらに光を放つように見えた。その光が一瞬ソラの刀を押し返し、ソラは初めて一歩後退した。
「今のは……」ソラの視線がカイの剣に向けられる。その目には興味と驚きが混じっていた。
カイは息を整えながら、「何かおかしかったか?」と問いかけたが、ソラは笑みを浮かべた。「いや……なかなか面白いものを見せてもらった。」
ユウリとタカシがカイの側に立ち、再び構える。だがソラは刀を軽く下げて、「ここまでだ」と言った。
「力は見せてもらった。競宴への道を進むに足る力があるかは分からないが、少なくともこれで判断するに値する。」
そう言うと、ソラは刀を背中に担ぎ直し、彼らを見つめたまま静かに立ち尽くしていた。
戦いの中でソラが一歩下がった瞬間、彼の視線がカイの剣に一瞬だけ留まった。あの時、確かに剣先にかすかな光が走ったように感じた。それはソラ自身も経験したことのない特異な感覚だった。
しかし、カイは何事もなかったかのように立ち回りを続けている。まるで、さっきの異変に気づいていないかのようだった。
「……気づいていないのか?」
ソラは心の中でそう問いかけた。もし彼がこの力に自覚的ではないのなら、それはそれで危うい。意図せずに放つ力は、時として制御が難しいものだ。
戦いが終わり、カイたちが息を整える間、ソラは一瞬だけ口を開きかけた。しかし、すぐにその言葉を飲み込む。ここで教えるべきではない――そう判断したのだ。
戦いが終わり、カイたちが滝を後にしようとすると、ルナが大きく手を振った。
「お兄ちゃん、お姉ちゃん、バイバーイ!」
明るい声が滝の音に紛れながらも、確かに耳に届く。
カイは振り返り、微笑みを浮かべながら小さく手を振り返した。ユウリは「元気でね」と短く声をかけ、タカシもぎこちなく手を振る。
ソラは妹の様子を見て小さくため息をつきながらも、その表情にはわずかな笑みが浮かんでいた。