第2話 - 領域の競宴
風に舞う砂埃が彼らの足元をかすめ、道なき道を三人は歩いていた。周囲には、草木が途切れた荒れ地がどこまでも続いている。道というよりは、かつて通行人が踏みしめた痕跡がうっすらと残るだけだ。その先に何があるのか、誰にも分からない。それでも彼らは、村を背にして進むしかなかった。
歩き疲れたのか、あるいはそれぞれが考え事にふけっているのか、しばらくは言葉が交わされなかった。タカシは時折背後を振り返り、村の姿が完全に消えてしまったことを確かめるようにしていた。カイは先頭を歩き、目の前に広がる荒野をじっと見据えている。その表情には、不安と決意が入り混じっていた。ユウリはカイとタカシを交互に見やりながら、しっかりとした足取りで二人の後ろを歩いていた。
ふと、タカシが立ち止まり、小さな声で呟いた。「領域の競宴って、本当に平和のための大会なのかな……」
カイも足を止めたが、振り返らずに答えた。「あれが平和だと思うなら、世の中の平和は相当ひどいもんだな。」
ユウリが険しい表情を浮かべてタカシの横に立った。「あれは平和なんかじゃない。あれは、表向き平和を装ってるだけの代理戦争よ。ルールがあるように見せかけてるけど、結局勝つのは力のある者だけ。そして、その力を得るためにどれだけ無秩序に戦っても、誰も咎めやしないの。」
カイはようやく振り返り、タカシをじっと見た。「もともと、造物と人間はガチンコで戦争してたんだよ。最初は普通に兵を出して、互いの領土を奪い合って、それが何年も続いて……そのうち、民間人も巻き込まれるようになった。それを避けるために作られたのが『領域の競宴』ってわけさ。」
タカシが肩を落とした。「でも、それが本当に平和をもたらしてるわけじゃないんだね。」
ユウリは短く息を吐いた。「そうね。ただ、今の状況を表面的に保ってるだけ。でもそれも時間の問題かもしれない。大会を拒む造物も増えてるって話だし、もしあいつらが本格的に侵攻を始めたら、あの競宴なんて何の意味もなくなる。」
タカシは小声で「そうなったら、僕らはどうなるんだろう……」と呟いた。
カイが少し声を強めて言った。「だからこそ勝つんだよ。大会で結果を出せば、少しは流れを変えられるかもしれない。村に戻ったときに、少しでもいいから安心して暮らせる日を増やせるようにするために。」
ユウリが静かに頷いた。「まあ、やるしかないわね。」
タカシは再び歩き出しながら、「そうだね、やるしかないよね」と、自分に言い聞かせるように呟いた。
三人の足音が再び乾いた地面に響き、砂の中を前へ前へと進んでいく。その先にあるのは、どこまでも続く荒野と、果てしない競宴の舞台だ。彼らはまだ知らない。その競宴が何を意味し、どんな未来をもたらすのかを。
今回もご覧いただきありがとうございました。
領域の競宴 代理戦争は果たして平和への架け橋なのか、それとも大きな戦争への序章なのか。
次回もお楽しみにです。