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完全詠唱

作者: 庭城優静

どうも。庭城と申します。


ある作品賞に応募してかすりもしなかったので蔵出しってやつです。

 無詠唱呪文。

 ある一時を境に急激に広まった高度魔術。

 魔術詠唱に必要だとされていた発動条件を短縮、簡略化することで詠唱時間という魔術師の最たる欠点を解決することに成功した魔術の頂とも呼べるもの。

 クイックスペルともよばれ、今や魔術はいかに早く発動できるかが最重要とされてきている。

 今までの魔術は古代魔法という括りにされてきているが、無詠唱魔術を習得するためには、魔法の基礎を熟知する必要がある。まあ、この時代それが出来ない生徒は存在しない。

 というよりも、無詠唱でも魔術を行使できるという便利な概念を覚えたことで魔術師の知識は希薄してきている。

 未だに詠唱魔術なんて古くなってしまった技術を扱うものは私の知る限り1人しか見当たらない。

 話がそれましたね。次回のテスト――古代魔術の詠唱による事象変異についての講義を始めます。

 私は生徒達を一瞥して後ろの黒板に講義内容を記していく。

***

 魔術学園(アルヴァラン)


 魔術を極める為の学び舎で1人の生徒が学園内の掲示板を見て眉をひそめていた。そこには今回のテスト結果が張り出されていた。

「エイエールさん!凄いですよ魔術実技断トツの主席ですよ!?」

「魔術座学・基礎座学・魔術理論・基礎体術も好成績!学園主席確定だよ!凄い凄いエイエール!!」

 周りの生徒達が彼を褒め称える。

 彼の名はエイエール・エイシン。魔術学園(アルヴァラン)随一の魔術師の名を轟かせている天才児である。

 しかし、彼の顔は晴れやかとは真逆の鬱陶しいと言わんばかりの渋面であった。

 その理由は、魔術実技以外の科目にある。彼の名前の上に記されている――彼よりも成績の良い生徒の名前の存在に起因している。

『魔術座学……主席ノクターン・フォーロン。基礎座学……主席ノクターン・フォーロン。魔術理論……次席ノクターン・フォーロン』

 エイエールの上に白々しく存在する男ノクターン・フォーロン。魔術実技は下から数えた方が早いのに、それ以外は全て好成績。

 エイエールは正真正銘の天才である。しかし、天才とは唯一1人に与えられる呼称だ。

 ノクターン・フォーロン。彼がいる限り学園主席と堂々と名乗り上げることは出来ない……!

 エイエールは歯をぎりと鳴らし掲示板から離れ、ある場所へと移動を始める。

***

 大食堂。生徒数1000名を超える魔術学園(アルヴァラン)の教師や生徒の胃袋を満たす食事処。

 そこで高価なスペシャル定食に舌鼓を打つ2人組。

 1人はノクターン・フォーロン。

 灰色のくせ髪に鋭い一重をしている学生。

 成績は魔術実技以外は好成績を誇っていて、座学においては他の追随を許していない。

 絵に描いたようなガリ勉――でもなく、背は高くはないが均等な筋肉を持っているおかしな生徒だ。

 そんなノクターンは成績優秀者に贈られる金貨を使い、豪勢な食事をしている。

「いやー弟子のお陰で美味しい食事にありつけるなんて、私は嬉しいですよ!」

 満面の笑みでプリンを口に運んでいるのは教師でありノクターンの師匠とも呼べる人物――マナフィ―・リーだ。

 淡い水色の髪を後ろで纏めている童顔の女性教師。

 魔術座学――古代詠唱授業の講師をしていて、学園の端にある研究室を寝室に改良して勝手に弟子認定をしているノクターンと生活を共にしている。

「喜んでいるところ申し訳ないですけど自分の食事くらい、自分で払ってくださいよ。今回もしれっと注文してたよな」

「私のお給料は両親への仕送りと研究費で無くなってしまうんですよ。何度も言わせないで下さい!」

 マナフィ―は幼子の様にぷいっとそっぽを向いて頬を膨らませる。

「俺にも何度も言わせるな!研究費でどれだけ消費しているのか俺は知ってるんだぞ!?そこを多少なりとも他のことに回せっての!」

 2人は付き合いが長いため、このような距離感で話しているのは周知だ。

 2人でいつものように雑談をしていると、周りからざわっと声がしているのに気が付く。

 2人の机の前に姿を見せたのはエイエールだ。性格は優しく天狗にならない。おまけにカッコいい。周りの女性人気は凄まじい。しかし、ノクターンに向ける態度は明らかに敵視だった。

 ノクターンは面倒くさい気持ちを抑えながら、顔を少し上げてエイエールの方を見る。

「ここにいたかノック。君に話がある」

「俺はないな。優等生のお前と一緒にいると周りの女生徒に嫌な眼で見られるんだ。今度……いや、卒業後にしてくれ」

 ノクターンは手をパタパタと振る。ちなみにノックとはノクターンの愛称だ。

 その手をエイエールが手の甲で弾く。

「僕には2度と話してくるな。と聞こえるんだが?」

「考えすぎだ。カリカリしなさんな。プリン食うか?」

「食べるーー!」

 喜んだのはエイエールではなく、マナフィ―先生だ。ノクターンの差し出したプリンを素早く奪い取る。

「……悪い。プリンがなくなった、どうする?」

「僕と決闘――”天秤の威厳のままに”を申し込む!」

「断固拒否する」

 エイエールのキメ顔をノクターンは真顔で返す。

「あの優秀なマナフィ―先生の弟子がそんな弱気でどうするんです?」

 エイエールの後ろから魔術論理学の講師、ルーンルーンがメガネのつるを触りながら不敵に笑う。

「それとも……テストの不正がバレるのが怖いとか?」

「先生……、俺は魔術論理学でもいい点を取りましたけれど?」

「でも、魔術座学では満点だったでしょ?弟子の貴方1人だけ。弟子という肩書を利用してテスト内容をあらかじめ知るくらいわけないのではないかしら?」

 ルーンルーンはノクターンの反論をものともせずに笑う。

 すると、話を聞いていたマナフィ―が口を開く。

「ルーンルーン先生!テストにおいては弟子だろうと関係なく採点する決まりですよ!それに、テスト内容は各教師の部屋で厳重に保管するしきたりですよ。それを弟子だろうと見せるのはご法度。ノクターン君の回答にケチをつけて満点を取り消した先生の方がよっぽど不正ですよ!」

 マナフィ―の発言に周りで聞き耳を立てていた生徒が吹きだす。

 マナフィ―は思ったことをそのまま直球に発言してしまう癖がある……。

「…………っ!!」

 ルーンルーンは顔を真っ赤にして「覚えてなさい!」と捨て台詞を吐いて食堂を足早に出ていった。

「……先生。あんなストレートに嫌味を言うことないでしょ」

 ノクターンは頭を軽く抱えて「また俺に嫌がらせがくるよ」と愚痴を零す。

「……私、オブラートに包みまくりましたよ?」

「包めれてないから言ってるんだろうが!阿保教師!!」

 ノクターンは人差し指でマナフィ―のおでこを突く。

「痛い痛い!先生に説教しないで下さいよ!」

 マナフィ―はおでこを擦って涙目になる。

「はあ……、ノック。僕も退散する、さっきの話は覚えておくように」

「あ、まだいたのかエイエール」

「!!」

 ノクターンの横柄な態度に怒る。

 瞬時に杖を取り出し、無詠唱で『雷撃斬剣(エクトロ・カダス)』を繰り出す。

 ノクターンは紙一重で躱す。

「……危ないじゃないか、ここを闘技場と勘違いしてるのか?」

「今のを避けれるほどの実力を持っているのにも関わらず僕から逃げるのか?真の一番を決めるぞ!」

 ノクターンは「やれやれ」と呟き、両手の指を組み手印を結ぶ。

 親指と小指をくっつけ、手を蓮の花の様に形取る。

 エイエールはノクターンの指を見て警戒を強める。成績優秀なエイエールでも見たことのない動作だったからだ。

「……なんだそれは?杖を使わない魔術は効率が下がる。はったりか?」

「試してみるか……?」

 ノクターンの身体から魔力が纏まる――ことはなかった。

「試さんでよろしいですよ!!」

 マナフィ―に頭をスリッパで強く叩かれたからだ。

「何するんだ――ですか?先生!?」

「私の至福のデザートタイムに喧嘩なんかしないでくださいよ!」

 マナフィ―の空気を読まない発言に周りの殺伐とした空気が霧散する。

 エイエールは今度こそ背を向けて食堂を後にする。

「”天秤の威厳のままに”で決着をつける」

 と、余計な一言を添えて……。

「…………」

 ノクターンの深刻な顔を見てマナフィ―はにこりと笑う。

「大丈夫ですよ!ノクターン君が魔術での決闘をしないように目を光らせるのが師匠であり恩師である私の仕事なんですから!!」

「……前に読んだ本にありました。こういうのをフラグと言うんですよね」

 ノクターンはそう言って大きくため息を吐いた。


***ノクターン視点

「ノクターン君!!私の為に戦ってぇーー!!」

 あの食堂騒ぎから数日後のこと。マナフィ―先生は泣きながら俺の服に縋りつく。

 やっぱりこうなったよ……!


 話はこうである。

 マナフィ―先生は学園長から呼び出しを受けた。

 学園長によると、マナフィ―先生の不正疑惑が発覚したとのこと。

 なんでも、先生の自室にあるテストを入れる鍵付き箱の鍵がついておらず、こっそりと答案を盗み見ることが用意だったとか……。

 俺はくだらないと一蹴したかった。

 何を今更だとな。

 先生は魔術の知識だけにおいては優秀だが、それ以外は点で駄目だ。

 講義に必要な書物を何度俺が準備したか分からない。

 生徒のお金で定食を食べている時点で分かるだろうに。


 俺は食堂での1件を思い出す。

 ルーンルーン先生に言った発言。あんなことを言われたら、あの先生だったら確認しに向かうに決まっている。

 そして、部屋の惨状を見ればこうなることくらいわかるだろうが……!

 俺が頭を抱えたのは何にも可笑しくはなかったな。

「ちょっと!遠い目をしていないで私の話を聞いてくださいよ!」

「聞いてますよ、真剣に考えているところです」

 上目遣いで先生は「本当です?」と尋ねる。

 俺はふっと笑い口を開く。

「先生の次の職場に適した場所を――いてて!首を締めるな!!冗談だから」

「むーー!!」

 先生は、頬を膨らまけて分かりやすく拗ねる。

「で、俺は何をすればいいんですか?」


 そろそろ本題に入ろう。

 大体、見当はついているがな。

「学園長からは私がその……ず、ズボラなことを知っているし、ノクターン君が優秀なことも知っているから、そんな不正なんてないとは言ってくれたんだけどね」

「ルーンルーン先生が首を縦に振らなかったんですね、分かりますよ。エイエールが決闘したがってましたからね、丁度良いといった感じですか?」

 マナフィ―先生はこくりと首を縦に動かす。

「負けたらマナフィ―先生は離職。俺も退学になるかもしれないってところか……」

「ルーンルーン先生は魔術大学院『インデックス』にいた時から私に当たりが厳しかったから……。決闘だって、攻撃魔術が使えないノクターン君には……」

 マナフィ―先生はそう言って左腕を擦る。

 フード越しで分かりずらいが、包帯が巻かれている。

「……なら、どうして俺に助けを求めたんですか?」

 俺の言葉にマナフィ―先生はきょとんと眼を開いたまま少し固まる。思考が停止している時の癖だ。

「……そうでした。気が動転していましたね。ごめんなさい、ノクターン君ならなんだかんだで何とかしてくれると失礼な期待をしてしまいました」

 先生はぎこちなく微笑を浮かべる。


 何年の付き合いだと思っているんだ。あんなの心情なんて手に取るようにわかるぞ……!

「……たしか、”天秤の威厳のままに”はお互いに大事なものを代価にする必要があるんですよね?」

「えっ、そうですよ。それぞれの差し出す覚悟が均等になっていることが決闘条件で、勝者には相手の天秤が下りたものを手に入れることが出来る、でしたね。それが?」

 俺は視界に入っていた貯金箱を杖で壊す。

「ええっ!」

 先生は突然の暴挙に驚く。

 机にちらばった魔術が込められたガラスの破片と大量の金貨。俺が今まで貯めていたものだ。

 俺は金貨の山を鷲掴み、先生の眼前に突きつける。

「学園中の金貨を手に入れて毎日豪遊するもの悪くはないですね」

 手からこぼれた金貨が床に落ちてキィンと甲高い音を立てる。


 賽は投げられた。

***

『さあ、いよいよ始まるぞ!魔術学園(アルヴァラン)最大の決闘”天秤の威厳のままに”!!まずは学園主席エイエール・エイシン。真の主席を手にするという信念の元決戦の地へと降りたつーー!』

 音声増幅魔術具を持った司会の生徒がテンション高めにエイエールを紹介する。

 観客からは盛大な拍手が聞こえる。

 早くも俺の紹介の時の観客の反応が手に取るように分かる。

『――続いては座学ではいつもトップ!がり勉かと思いきや他もそつなくこなす優等生!しかし、基本の無詠唱魔術の腕はからっきし!赤点候補!なのに勝者報酬は多額の金貨!自由を掴めるかノクターン・フォールン!!』

 観客から有難迷惑なブーイングを頂く。

 まあ、こういったアウェイの方がやりがいがあるけれどな。

 エイエールの方を見ると――集中して目を閉じて、お高そうな装飾のスタッフを構えている。

 あんな長くて強そうな杖で攻撃されたら一発で終わるぞ?そう愚痴を言いたがったが、変に神経を逆なでするのもよくないな、今は。

 強そうなスタッフに対して、俺のは普段懐に入れているだけのワンド――通常の杖だ。

 観客席のVIP席に鎮座している学園長とその左右には今回の争点であるマナフィ―先生とルーンルーン先生がこちらを凝視している。

 学園長は席を立ち、拡声具を使わずに声を出す。周りが静かになれば必要のないものだからな。

「――これより、”天秤の威厳のままに”をおこなう!双方、天秤に乗せる覚悟を述べよ!」

「エイエール・エイシン!観客席で応援してくれる全てのものの期待をかけることを天秤の威厳に誓う!」

「ノクターン・フォーロン。自分と師の存続をかけて、自由の身になることを天秤の威厳に誓ってやるさ」

「――よろしい!では、始め――!!」


 闘技場に備え付けてある大きな銅鑼が鳴り響く。


***マナフィ―視点


「流石はエイエール君。流れるような無詠唱呪文ですね――雷撃斬剣(エクトロ・カダス)火炎乱舞(ダンス・ヴォルス)。上級魔術をスペルスピード1で繰り出せれる生徒は始めて見ました!学園長、ご子息は本当に優秀ですね!」

 私がウキウキしながら学園長に視線を向けると、若々しい中年である学園長は苦笑いで答える。なぜ苦笑いをするのかはわからないですよ?

「ありがとう、マナフィ―先生。しかし、私が言うのも何だが普通は愛弟子であるノクターンを応援するべきなのでは?」

「あっ」

「学園長、言っても無駄でございますよ。マナフィ―は魔術しか見えていないですから」

 ルーンルーン先生はそう言って昔のことをぶつぶつと喋る。

「ルーンルーン先生!そんなことよりも決闘を見ましょうよ!」

 ルーンルーン先生は大きくため息を零し冷めた目で顔を元に戻す。

「先程から貴方の弟子は避けてばかりで反撃の一つも入れてはいないではないですか。エイエールの魔力切れまで逃げるつもりではないでしょうね?」

 ルーンルーン先生の発言に私は首を傾げます。

「何を言ってるんですか?当り前じゃないですか」

「何ですって!!彼は主席ですよ?そんな簡単に魔力切れを起こすような軟弱ものではありません!1時間以上今の勢いを続けれる魔力を持ち合わせています!」

「そんなの見ていれば分かりますよ。ですけれど、魔力量は精神力と直結しています。あれだけ攻撃を躱されると魔術に乱れが生じるものですからね。エイエール君を流石と言ったのは、あの状況でも乱れることなくクイックスペルを発動出来ている精神力にですよ」

 私の力説にルーンルーン先生は「貴方の教え子の心配はよいのですか?」と頭が痛そうに手を添える。


 私は決闘の様子を凝視する。

「ちょこまかと!反撃のひとつ何故入れない!僕の魔力切れを待つのは愚かな考えだぞ!」

「危なっ!うるさいなー、こっちは避けるので手一杯なんだ……っよ!」

 ノクターン君は会話の刹那に杖を振って攻撃を仕掛ける。え、攻撃?

 エイエール君は慌てずに防護結界を展開する……が、それを貫通して何かが胸に命中する!

「がっ……!!」

 エイエール君は少し後退して自分の身体を確認する。

「今のは……金貨?だと」

 エイエール君の足元に落ちたのは普段学園で使っている見なれた金貨だった。

「ご明察。金貨を飛ばしたのさ。痛いだろ?魔術が飛んでくると警戒して物理結界を怠った所為さ。っていっても、大したダメージにはならないけどな」

 ノクターン君は指にあるコインを弄って解説をしてくれている。

「なぜ、魔術を使わないのですか?最低限の魔術は出来るはずですでは?」

 ルーンルーン先生が私に問いかける。

「……使わない、のではなく、使えないんですよ。心的外傷で」

「なんですって!?」

 私達の会話と繋がるようにノクターン君達も同じような話をしているようです。

「使えないとはどういうことだ……!」

「……昔、神童なんて煽てられた時に馬鹿をやらかしてね。それ以来、攻撃系無詠唱魔術は使ったことがないんだ」

「そのコインと僕の魔力切れで勝利を掴もうとしたのか?」

「いいや、そこまで卑怯じゃぁないさ。無詠唱ならずっと使っている」

 ノクターン君はこめかみ付近をトントンと触る。

「彼は無詠唱で身体強化をかけているんですよ。魔法剣士の様に」

「魔法剣士ですって?」

「ええ。魔術を主とする私達とは違い、魔術を剣技への補助として行使しているんです。でも、彼には魔法剣士の様な剣技を持っていないし、魔術師に必要なクイックスペルを持ち合わせているわけでもありません。壊滅した魔術師……フォールンというやつですね」

 私の発言にルーンルーン先生は眉をひそめる。

「貴方……、自分の教え子に酷すぎるのではないですか?」

「え?不正をしたかもしれない私と彼にはお似合いではないじゃないですか」

 私は何故そんな顔をするのか不思議だなと首を傾げてしまいますよ。

「……んん。貴方は相変わらずデリカシーがない……!」


「――では、何故それを始めから言わなかった?僕は弱いものを虐げたくてこの決闘をしたわけではないのだぞ!!」

 エイエール君は激高する。

「弱くないからな、俺は。まあ、全力を出せれないのは申し訳ない」

「――どうして全力を出さないのです!?」

 ルーンルーン先生も私に対して激高する。私に怒られても……。

「それは、昔にノクターン君の魔術で私の腕が大けがを負ったからでしょう」

 私はそう言って左腕に巻いてある包帯を外す。

「…………」

「……マナフィ―先生」

 黙って決闘を観戦していた学園長が重々しく口を開く。

「はい?」

「傷、ないですよ!?」

「え?ええ、昔のことですからね」


『ええ!!』

「はぁぁぁぁぁ!!」


 先生達とこちらに視線を向けていたノクターン君が信じられないものを見る目で私を見ていました。

「おおい!じゃあ、その包帯はなんだよー!」

 遠くから大声でノクターン君が叫びます。

「魔術実験とかで手を保護するための魔術が施されているんですよー!使い古してたんで少し痒いのが難点ですけれどねー!」

 私も大声で返してあげる。

 ノクターン君は絶望した様に天を仰いで――大笑いをした。

「その……心中察する」

「ありがとう、エイエール。それから本気、出すとしよう!!」

 ノクターン君の身体から魔力が大きく溢れ出す。

「凄い!何でかは知らないですけれど、心的外傷を克服したんですね!!」

『…………』

「ん?どうかしました?」

 私は2人の顔を見るが、返事はありませんでした。


「……一様、勝利のプランは用意していたんだけどな。躊躇う必要がなくなると心が晴れ晴れとするものなんだな」

「どういうことだ……?」

「エイエール、雷撃斬剣(エクトロ・カダス)を闇雲に避けていたと思っていたのか!?」

「何!?」

 ノクターン君は左手を開いて、開いた手の甲を右手で握るようにして手印をする。

『挟撃 写見 蓬莱。借りは返す。御敵 喝采 鮮血地。これが真の業である。打ち鳴らせ――』

 エイエール君が動揺している間に彼は準備を済ませた。

 このクイックスペルの時代。魔術を行使するイメージに必要な詠唱というものを、一から学び直して新たな詠唱を身に着けた。


 完全詠唱 雷鏡檄(らいきょうげき)


 雷撃を帯びた斧がエイエール君に振り落とされる!

 エイエール君は瞬時に防護結界を囮にして攻撃地から非難する。

「……はあ、はあ!」

「よく避けたな、流石だよ。今のは相手の雷撃系魔術を規定ポイントに集めることで発動可能なカウンター式の完全詠唱」

「完全詠唱……!」

 ノクターン君は素直にエイエール君を褒める。彼が他人を褒めるって、結構凄いことですよね。

 2人の距離は魔術的に丁度いい位置にいる。近すぎず遠すぎず、つまりは、次の攻撃が決めてになりそうですね!

「そして、これが……」

 ノクターン君はそう言って、両手で手印を結ぶ。

「あのかま……」

「――あの構えは以前見た、だろ?それが発動条件なのさ」

 この魔術を発動してはいけない。そう判断したエイエール君は急いで雷撃斬剣(エクトロ・カダス)を発動するが、キレがない……!

「魔力量は精神力と直結している。師から学ばなかったか?」

「くっ……!!」

 観客が静まり舞える。彼の詠唱を聞くために、見るために……!


『連弾 乱舞 幾星霜。怒りは憤怒に。御敵 破滅 道化道。全身全霊を持ちて放つは奥義』


『散るがよい』


 完全詠唱  妃蜂(ひばち)


 ノクターン君の周りから数えきれない数の魔力弾が放たれる!

 エイエール君は最大の魔力を使い結界を張る。

『ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ』

 魔弾は続く。魔力切れなどないかのように。

『ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ』

 魔弾は続く。魔弾の中に金貨が内包されている。

 それにより、金貨という『価値がある』という『概念』を代償により、発動条件の緩和と威力増大の力が働いていると私は睨んだ。

 高度な魔術理論により、無限連弾となっている?

 詳しく観察をしたいけれど……終わりを迎えるでしょうね。

『ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ!!』

 エイエール君の結界は粉々に崩壊して眠るように倒れた。

 静まり返る会場で天秤が傾き勝者への報酬が降り注ぐ。

 ノクターン君は金貨を指で弾き「詠唱終了」と呟いた。


***

 決闘終了後、私達は無事に退学を免れ――なかった。

「どうして!私達は夜逃げしているの!!」

「こんだけの金貨!これまで以上に厄介ごとに巻き込まれるだろうが!考えろ!!」

「うううっ」

「それに、学園長とルーンルーン先生から『インデックス』への滞在を認めてもらった。念願の研究生活ですよ、先生」

「えっ!?どうしてですか?私はあそこを……」

「先生がずぼらすぎて研究論文を発表せずにムダ金を使っていたからですよ!弟子の俺がいれば安心だと承認してくれました。ルーンルーン先生もずっとインデックスに戻ってほしかったそうですよ。紛らわしい同期ですね」

「えええーーー」 

 私の知らない間に色々進んでいて目が回ります。


「――ノック」

「びっくりしたー!暗闇で見えなかったけれど、エイエールか」

 よく見るとエイエール君の顔や体には傷跡の処置が残っている。医療魔術でも完治には多少の時間がかかりますからね。

「次は勝つ」

 そう言ったエイエール君の眼は先程の戦いよりも鋭く研究したいほどの洗練された魔力を纏っていました。

「卒業したらインデックスに来なよ。茶くらいだすからさ」

 エイエール君はふっと笑い、暗闇に消えていった。


「さあ、先生。俺の完全詠唱を極める研究をしますよ!」

「うん!それは私も気になっていたことだからね!喜んでだよ!ところで……」

「はい?」

「どうして心的外傷を克服したの?」


「…………」


「えっ?どうして無言で魔力を込めるの?どうして手印を結ぶのって、その構えは――!!!


 完全詠唱。詠唱終了。

ご愛読ありがとうございました!

庭城先生の次回作にご期待ください!!


※評価がつくようでしたら連載します!……って、誰もみてくれねぇかw(涙拭きなよ)

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