入学式(1)
「聞こえねぇなぁ!!!」
「なめてんのか!!!!」
「ふざけんじゃねぇぞ!!!」
聞こえるのは怒号、怒号、怒号。
突然連れてこられたと思えば、まったくの見知らぬ人たちから罵倒を受けている。
入学式というめでたい日にここまで他人から文句を言われることなんて、俺が生まれてから初めての体験なんじゃないだろうか。
というか、世界で見てもこんな体験をしたのはほんの一握り程度なんじゃないだろうか。
目の前の人たちはこめかみに血管を浮かべながら、唾をまき散らして叫んでいる。
正直怖い。
やれやれ系主人公だったとしても目に見えて取り乱すのは違いないほどだ。
といってもここまでの罵声を受けているのは俺ではない。
かわいそうに。罵声を受けている男の子は顔を真っ赤にして涙目になりながら彼らに立ち向かっている。
そのうち罵倒を受けるのは俺になることだろう。
彼が罵倒を受けている間、現実逃避代わりになぜこのような経緯になったのか、何が悪かったのかを思い返してみよう。
それで何かが解決するとは思えないけど、何かの糸口にはなるかもしれない。
というか糸口になってくれ頼む。お願い。
======================================================================================
「遅刻遅刻~!!」
俺は岡崎亮。
今日から第1工業高等専門学校の1年生!
寝坊しちゃって入学式に遅刻しちゃいそうで大ピンチ!
昨日は楽しみで眠れなかったからなぁ。
入学式から遅刻だなんてみんなからいじめの対象にされたらどうしよう…。
最高の1日になるはずだったのに幸先不安だよぉ!!
そんなとき、曲がり角から食パンを加えた女の子とどーん!
「見たでしょ!」「見るかよ!それより遅刻しそうなんだ!一緒に急ぐぞ!」「あんたあとで覚えときなさい!」
……なんて痛い考えをぼーっとしているが、俺がいくら焦ったところで学校に到着する時間は変わらない。
なぜなら、親に車で送ってもらっているからだ。
曲がり角で女の子と衝突した日には事件だ。絶対にやめてもらいたい。
弁解をすると車登校の理由は別に遅刻しそうだから親にねだり送ってもらっているわけでも、体調が悪いわけでもない。
もともと学校がなぜか山の奥地にあり、車でも登校に2時間以上はかかるのだ。
うちみたいな田舎では交通の便がとにかく悪く、1時間に数本しか来ないほか学校まではかなり遠回りしなくてはいけない。
田舎、不便。
入学式に遅刻したらハブられるかもと思っているのはマジだけど、急かして事故を起こしたら元も子もない。
幸いギリギリには到着予定だからなんとかなるはずではある。
「あんた忘れ物はないでしょうね!!こんな時間になってほんとギリギリよ!」
母が怒る。
いつもなら運転中に話しかけると車を止めてまで「運転中に話しかけないで」と怒る母が運転をしながら怒るのは相当だ。
平常時ならしばかれているくらいには怒っている。
「ごめん」
これしか言える言葉がありません。本当にごめん。
思春期だからなんでもツンとしちゃうんだ。
マジで思ってるから許してほしい。
ついでに、母が前のめりになりながら必死に運転しているのに痛い妄想をした分もごめん。
「まったくあんたはいつもいつも…。お姉ちゃんも…。」
なんてぶつくさしながらも急いでくれてる母。
心の中で拝ませていただきます……。
母が急いでくれたおかげでなんとか間に合った。
「母さん、ありがとう。また今度ね。体調には気を付けて」
「あんたも頑張んなさいよ!!!急ぎな!」
母に別れを告げて教室へと急ぐ。
別に今生の別れとかではないけど、登校に2時間以上もかかるのでは勉強に支障をきたすということで俺は寮に住むことになっている。
というか親元を離れることができるからここを選んだまである。
彼女と登下校する青春はなくなるけどその分、寮という特殊な環境で育まれる青春もあるだろう。
「E組か…」
急いで教室につくと俺以外の全員がすでに席についていた。
最後だと席がわかりやすくていいな。
空いているのは一番後ろの席から二つ目のところか。ラッキー。
そう思いながら自席に着席したとき、なにか違和感を覚えた。
なんだ。この違和感は。
とてつもなく嫌な予感がする。
忘れ物か…? それともすでにハブられていることを感知したのか…? 大穴で異世界転生の前兆を感じ取ったか…?
この違和感はすぐに解決する。
『俺はこの席に座るまでの縦列で女の子を見たか…?』
全身に寒気が走る。嫌な予感はまだ続いている…!?
縦の列だけではない。
このクラスに女子がいない…!?
あ、いやいた。1人だけいた。よかったー。
え、いや1人!?
なんだ、本当は男装している女子が紛れ込んでいるのか!? 目がおかしくなったのか!?
混乱しているその時、
「はい、全員いるね。このクラスの担任になる山田です。よろしく。じゃあ入学式するからみんな廊下にさっさと出てねー」
担任と自己紹介した山田先生は教室の扉をのぞき込みあまりにも適当な自己紹介、誘導を始めた。
教室にも入らず、こんな適当な自己紹介でいいのか。担任。
廊下に出るとほかのクラスも誘導が始まっていたようで、廊下に出ている。
……やっぱり女子の比率が圧倒的に少ない。
あ、でも女子の比率が多いクラスもあるな。偏りありすぎだろ。
今年は女子が全然入学しなかったのか?
仕方ない。年上彼女というのもまた素晴らしいものだからな。先に卒業してしまうのは悲しいけど、先輩彼女に夢を託そう。
「じゃあみんなこれから入学式だけど頑張れよ」
頑張って?頑張ることなんてないんじゃないだろうか。
寝ないようにしてってことかな。
まぁまかしときなよ。
入学式場である体育館に入場すると、違和感のある光景があった。
保護者がいないのだ。どこにも。
高校にもなると保護者同伴なんてないんだな。
ん、まて。じゃあ本来保護者が座るべきところに座っている人たちは誰だ…?
やけに男性比率が高いが…、まさか、まさかとは思うが先輩か…?
……女子ほとんどいねぇじゃん!!!
で、でもまぁ先輩が入学式に参列してくれてるってことは別に治安が悪いわけじゃなさそうだし…。
女子がいないのはもうこの際仕方がない。
下調べしなかった俺が悪い。
しかし、少し街に出れば女子高があるのを俺は把握している。
しかも、ほかの高校の文化祭にだってチャンスはある。
中学の友人が多いのが幸いして友達がその高校にいるから合コンだって開いてくれる。
大丈夫、大丈夫。
リカバリーは可能。
オーケー、クールになれ岡崎亮。
クールになったらまた別の違和感を感じる。
先輩だとしたら明らかに見た目30半ばのおっさん何人かいるんだけど?
髪の毛がピンクやみどり、極めつけは虹色のやつもいるんだけど?
やっぱり異世界転生してたのおれ??
先輩たちのショックが抜けきらず入学式にお偉いさんがなにか話していたようだけど、全然耳に入らず入学式は過ぎていった。
実在する団体が出ますが、完全フィクションです。
だから怒らないでください。