囁く理(終章)
12月5日 木曜日 快晴。
時刻は10:30。
奇跡的に伯父さんの意識が回復してから3日が過ぎた。
たまたま見舞いに来ていた香奈姉のいる時に、その奇跡は起きた。
そのあとはもう、母を筆頭に親族一同大騒ぎだ。
光が器に入っていく…それは不思議な光景だった。
:
「明夫伯父さん。お久しぶりです。香奈です。お元気ですか? わたしね、今度母親になるんですよ」
香奈姉が手を握って伯父さんに語りかけていた。
報告したいことがたくさんあったんだろう。もう、5分以上も話続けている。
(よくそれだけ会話ができるなぁ…)
僕は香奈姉のその姿を窓際から見ていた。
すると突然、香奈姉のお腹の周囲に3つ程光が現れた。
(光が…3つ!?)
その光はふわふわとゆっくり動き、入る場所を求め彷徨っているようだった。
しばらくするとまるで重力に引き寄せられるように光の1つが胎児に。もう1つの光が叔父さんの頭に収まった。
残った光は次第に動きがなくなっていき、5秒程度でピタっと静止した。
と思ったその直後、ゆっくりと消えてしまった。
「あ!?」
すると突然、香奈姉が何かに気付いた声を上げた。
「どうしたの?香奈姉! 大丈夫?」
「う、うん平気…。彰、今ね! お腹の子が蹴ったの!」
(胎動が訪れたんだ!)
胎動の直前に光が現れる。僕と孝弘が予想したとおりだった。
その次の日、このことを大学で孝弘と潤に伝えると…
「面白い! 実に面白い!」
「マジかよ! すげぇーー!」
二人とも目を輝かせて興奮した。
そして…
「うん。なかなかに面白い与太話だったね。楽しめたよ。でもそれとは別に、伯父さんが回復して良かったな」
「いや、与太話じゃ…」
そう言いかけると今度は潤が割って入ってきた。
「ほんとほんと! 良かったな!彰! でもま、所詮与太話じゃーな。他の奴には言えねーな!」
「他の…?」
そこでやっと僕は気が付いた。
二人は僕の能力のことを秘密にしようとしてくれているんだと。
「…隠しておいた方が幸せになれることもあるよ」
そこには二人の笑顔があった。
「…孝弘、潤。ありがとう」
「うん」
「おう!」
:
今日も伯父さんに会うために親族が遠くから病室に駆け付けて来ている。
涙を流しながら伯父さんの手を握る親族を横目に、僕は病室の窓に寄った。
とても良い天気だ。
雲一つない空を眺めていた視線を街へと落とす。
街はいつものように大勢の人が行き交っていた。
その普段と何も変わらない光景を見て、いつものように僕は思うのだった。
(今日もぼんやりと光っている)
最後までお読み頂きありがとうございました。
ご意見・ご感想など頂けますと嬉しいです。
余談ですが、登場人物の名前は某声優さんたちから頂いています。
彰
孝弘
潤
香奈
母:里美
伯父:明夫
伯父にセリフを与えられなかったのが残念でしたが、
この辺を踏まえて再度読み返して頂けたりすると、とても嬉しく思います。