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第3話 〜3色丼 完食〜

「あひゃひゃひゃ!」


 男は酒瓶を持ちながら千鳥足で遊楽街の高層の建物の屋上で、夜街を見下ろす。


「今回の標的は”1人”頑張ってくれよ〜、俺の鎌ちゃん」


 酒瓶の酒を飲み干し、酒瓶を空中に投げる。数秒後、地上から叫び声が聞こえ「あひゃひゃひゃ!」と汚い声色で涙を流しながら笑う。

 その背後に——


 1人の美男子、彼の手には”酒瓶”。


 そして————繰り出される右拳


 犯人の頭は砕け散り、”金属”が砕け散る。


「外れたが、神器の片割れは見つけた」


 トールは金属の破片を掴み、鼻に近づける。匂いを嗅ぎ、数十倍鋭くなった嗅覚で犯人の位置は粗方掴めた。犯人は後、5人。虱潰しに倒しに行っても、犯人を探している間に人を殺す。


「マグニ、野外授業開始だよ」


 ◇◇◇◇◇


 ————時は遡り、現在の時刻は午後5時半。


「ゴブリン15体に、キラーアント10体。魔石がいっぱい。売ったら4000ドラクマになるかな」


 僕は無料シャワー施設でモンスターの血だらけになった体を洗い、ギルドで魔石を換金して東の道を進み東区域にやってきた。

 東区域はなんといっても世界最高の飯所。何万という店がずらりと並び、どの国のご飯も、なんだってある。何時だって沢山の種族の人がいる。獣人族にエルフにドワーフにヒューマン。

太陽が沈んだ、東区域はきらびらかな景色で美味しそうな匂いが僕と目と鼻を支配する。


「楽しみで20分前に到着しちゃった」


 かぼちゃ亭の店の前に着いた。がぼちゃ亭の外観は、大きいかぼちゃが顔型に型取られて口部分が大きい入口になっている。こんなような店がこの区域には沢山ある。


「久しぶりに来たなあ〜」


 ここは先生との思い出のお店。中からジューシーなお肉の匂いを嗅いで最後に食べた時を思い出し、ヨダレが出る。でもまだ先生は居ないみたいだ。


「——少年」


「あれ? メメットさん?」


 僕がお店の前で待って、数秒。僕を待ち構えていたかのように、僕の右肩を優しく叩いたメメットさん。お店の時と雰囲気が違ってメイド姿ではなくて茶色ズボンと白の長袖、茶色の帽子をかぶった女性らしい服装になっている。


「久しぶりです。もしかして先生に誘われました?」


「そうにゃんだけど、トールが別のお店に変更したからトールに変わって私が来たにゃ」


「お店が変わった……? うえええぇ!? 3色丼楽しみにしてたのに!? そんなぁ〜」


 僕が顔を落とし、嘆ずってしまう。だって今日は3色丼の為に頑張ってきたのに。先生の意地悪!

 メメットさんはそんな僕を見て、「少年しょうがないにゃ!」と僕の背中を何回も叩き、不自然のように”手が止まる”。


「にゃはんん?」


 メメットさんは尻尾を僕の腰に絡ませ、メメットさんとくっついてしまう。僕は目を見開き、赤面する。


「ちょちょ!? メメットさん離してください!」


「いやにゃん! 少年よ! 早く行くにゃー!」


「ええぇ!? 強引すぎますよ!」


 僕は女性とあまり関わったことがなく、女性に強引にこういうことをされると……抵抗できない。

 メメットさんとくっついて歩くことで、通り過ぎる人からの羨望の目が痛い。メメットさんはなんというか、凄い可愛い人だから。


「うえ? メメットさん、裏路地に入るんですか?」


「そうにゃん、こっちに美味しいお店があるにゃん」


「えええ! ちょちょちょっと」


 迷宮都市(ゼイウス)の大きい道から少しでも外れるとそこは無法地帯。区域によっては安全か安全ではないとかあるけれど、でも裏路地は奥に行くほど本当に危険。

 迷宮都市はいい人いっぱいいるけれど、裏路地は悪者の住処、南区域にはもっと危険なスラム街はあるけどそれでも危険。

 だって、裏路地は入り組んでてただでさえ抜けづらいのに、ほら今だって変な人が僕を見てきた。


「メメットさぁーん!」


 僕は半べそをかきながらメメットさんに付いていくが、メメットさんは止まらない。


「にゃはははは! 少年、大丈夫にゃ!」


 尻尾の先端で僕の脇腹をこちょこちょして、気を紛らわせようとしているがメメットさんみたいな可愛い人がこんな奥深く入ったら……ほらっ! 後ろから人がついてきてる!? しかも4人ぐらい!?


「いや、大丈夫じゃないですよ! 早く抜け出しま———」


「———きゃああああぁぁぁ!?」


 どこからか叫び声が聞こえた。少年は——


 メメットの尻尾から抜け出し、走り出す。


『にゃーー!? キサマ少年を戦わせる気にゃ!?』


『そう騒ぐな』


 メメットが新しいお酒を入れ直しいる最中にトールから言われた言葉。メメットは驚きのあまり、グラスが手から離れそうになる。


『多分その時に私はいない。メメット……手助けしてくれないか?』


 メメット並の冒険者がマグニの傍にいれば安全だと認識している、トールからの申し出。だが、その第1条件にはマグニが殺人犯と戦うことになる。メメットの推定では殺人犯はDランク冒険者等級の力。15階層から奥に行ける、冒険者の半数以外の人物。マグニの到達階層は1階層、経験値の差が違う。


『トール……むちゃにゃ。マグニは犯人には勝てないにゃ』


『今回は大丈夫だ』


 メメットは動揺からかグラスにお酒を並々に入れ、トールに差し出す。トールはメメットの双眸を覗き、メメットも双眸をトールの黒目に集中させる。長年のパートナー、トールが間違えたことの方が少ない。

 これは金の話じゃない、これは——


 パートナーとしての決断だ。ならば答えは決まっている。


『じゃあ、早く犯人を見つけるにゃ。ただしー! 危ないと思ったら直ぐ助けるにゃ』


『ああ、ありがとう』


「ってことにゃんやけど、キサマら邪魔だからここらで締めとくにゃ」


 メメットは手を後ろで組みながら、可愛く背後を向く。背後にはゾロゾロと男達が彼女を狙って、悪い顔をしながら近づいてくる。


「にゃははは〜、私の知名度も落ちたにゃ〜。私、元B級冒険者にゃんやけど」


 メメットの”左目”が青く光だす。


 そして、男達は性に塗れた獣のように襲いかかってくる。


 ————記者は言った。ギルド職員さんに質問です。何故、裏路地やスラム街では神器は使用可能なんですか?


「元々神器はダンジョン以外、使用禁止なんですよ。だけど、裏路地やスラム街にはギルド職員の目が届きにくいから取り締まりが効かないんですよ」


 ————裏路地は言ってしまえば悪者の達の集まりですよね? 神器を使用しないと危険ではないんですか?


「そう! 危ないんですよ! 毎年死人も出てる……。裏路地にいる人らは自分がまあまあ強いと信じきっている。だからこそ、強い人にも喧嘩を売って———」


【大怪我を負うんですよ】


 筋骨隆々の男が不用意にメメット首袖を掴もうとするが、鳩尾にメメットの左拳、しかも不自然なぐらい内蔵が”狂う”。筋骨隆々の男は地面に倒れ込み、泡を吐きながら白目を剥く。この薄汚い裏路地に吹き込む新しい風、それは——


 メメットから放たれる。


 威圧と言えるべきその風に怯えた残る3人の男達が詰めてきた。なのに、1人は首の骨が折れ、1人は両手の指が折れる、1人は股間にキックをお見舞いだ。まるで気まぐれな突風が吹いたように彼らは地に伏せる。


 メメット、彼女は元B級冒険者であり世界最高峰の”情報処理能力”を持っている。

 彼女の神器の名は神器(サイクロプス)。彼女は相手の10歩先の動きをする。誰も捉えきれず、触れることすら叶わない。


 そんな彼女の二つ名は——


 単眼の処女(アイ・バージン)


 ◇◇◇◇◇


「誰かああああぁぁぁぁぁ————!」


 裏路地は妙に入り組んでいて、怖くて今まで入ってこなかった。だって今もずっと色んな人がいるんだもん!

 だけどこの人たちは女の人の叫び声を聞いて、動こうともしないで助けようとしている僕を笑っている。何なんだこの人達は!


「だれかぁ……! 助けてよ……!」


 僕は焦燥の濁流に飲み込まれながらも、道を進み地面に滴る血痕を見つける。だけど血痕が左右に続いている、あと1回。1回でもいいから、声を——


「かぁ——!」


「聞こえたっ!」


 僕は右の道を走り、血痕を辿り浴衣を着た男性が女の人を殺そうとしているのを発見する。

 この道、幅は4メートル、人は僕達だけ。


「やめろおおおおおおおぉぉぉぉっっっ———!」


 僕は道端に落ちていた酒瓶を手に取り、抛る。女の人を殺そうとしていた男性の後頭部に当たるが、ビクともしない。


「あひゃひゃひゃ、だれでぇお前」


 壊れた人形のようにゆっくりとぎこちなく、首が僕の方へ曲がる男性。

 あの男性——


 生きていない。直感で思ったことだけど、間違いない。不自然なぐらい瞬きをしないで、声色も変だ。


「止めてください。動いたら殴りますよ」


「あひゃひゃひゃ! この距離でか? ならやるか、お前が殴るのが早いか、俺様がこいつを切り落とすのが早いか」


 男性の目が浮き出るほど、目玉を僕に向けてくる。僕は腰にかけてある神器(ミョニル)を触れようとするが——


「おおっと、神器に触ってみろ。こいつがどうなってもいいのか?」


 倒れている女性は脚に傷を負い、動けない女性の長髪の髪を握る。悲痛な声が僕の耳に届き、反吐が出るような感情になる。


「助け……て……!」


「あひゃひゃひゃ! 助けろだって? おめぇがいけねぇんだよ。おめぇがあの男と喋るから!」


 女性は「おとこ……?」と小さい声で喋ると——


「そうだよ! おめぇの小汚い”銭湯”で喋ってんだろ——!?」


「——かはっっ!?」


 女性の顔を地面に強く擦り付け、女性は意識を失う。男性は厭悪を抱かせるように大声で笑う。

 僕は歯を食いしばりながらも、動けずにいる。くそっ、人質がいたら動けない。


「あひゃひゃひゃ! じゃあそろそろクライマックスだ。正義のヒーローは何も出来ずに、立ちすくんだままこの女の死に様を見る。あひゃ! 最高の喜劇だよな!」


 僕は周りを確認し、何か使えないか、足りない頭で何度も熟考する。何度も何度も何度も思考して、辿り着いた答えが——


 先生の言葉だった。


『マグニ、人を頼れるような人間になりなさい』


『頼れる人間?』


 狭い室内で、黒板と教壇、その前に僕が椅子に座って授業を受けている。僕は先生が言った言葉を聞いて、首を傾げる。


『そうだ。人を頼ることは勇気がいる、私はその勇気がなかった。だが、ある時1人の男が私を助けてくれた。何もしなくて、何も出来なかった私にはその男が1番”かっこよく”思えた。マグニにも分かる時が来るかもしれないな』


 ————人を頼る


 僕には出来ないですよ。頼って、裏切られたらキツいじゃないですか。それにこんな僕を助けてくれる人なんて——


 居ないんだ


「にゃにゃにゃにゃー! 呼ばれて飛び出でにゃんこきっーーーく!」


「どわっっ!?」


 男性の顔に屋根から降りてきた、メメットさんが飛び蹴りをかました。僕は好機と思い無我夢中で走り出し、ハンマー手に取る。


「はあああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 ハンマー型の僕の神器の、ヘッドは銀色、直径50センチで幅30センチの長方形。柄部も銀色、クリップは”先生”が装飾してくれた赤色のクリップを握り、男性の頭を打ち砕く。男性は——粉々の破片になり破片が地面に落ちる。


 僕は震える両手を安心させるように強く握るが、まだ落ち着かない。何か、何か今自分の中で崩れたんだ。


「少年。助けを呼ぶ人が弱い者に見えるかにゃ?」


「——え?」


 僕の瞳孔がはっきりしない時、メメットさんは女性の傷口に液体をかけ傷を癒していく。


「助けを呼ぶ者が弱いじゃにゃい。助けを呼べるから強いにゃ、助けを呼べる奴は自分が弱いことを知ってる奴にゃ。弱いと知ってる人は強いにゃよ」


「助けを呼べる人は……強い。でも! 先生はいつも強そうに見えます、バアルさんも、アイさんも、メメットさんも!」


「にゃははは、トールは弱い奴にゃ。あいつは弱いからこそ人に頼る」


「弱いからこそ?」


 ————聞いてねぇ! 聞いてねぇぞ!


「なんで、なんでなんでだよ! なんで【炎姫(ペレ・ファイア)】に情報が割れてんだよ!」


 闇夜に包み込まれた迷宮都市で1つの炎が光り出す。その炎は太陽に熱く、悪者の影を滅する光となる。


『分かったわ。————けど』


『けど?』


元仲間(パーティー)だったんだから何かないの?』


 アイが頬を膨らませ杖型の神器(ペレ)の先端でトールの肩をつつき、トールはいたいたいと苦笑いをする。


『手伝って欲しい。犯人は私が見つけるから』


『よろしい』


 プクッと膨れた頬が笑みに変わる。トールはそれを見て、やはりアイには敵わないなと喜色の笑みを浮かべる。

 時は戻り、犯人の神器()が壊れてきていることを感じ取り、焦っている犯人の——に近づく1人のエルフ。


「神器が壊れた事が予想外か?」


「誰だ!?」


 そこには”顔が自慢”の彼よりも遥かにかっこいい、エルフがいた。


「初めまして。グリンビアさん」


 辺り一面の草原。心地よい風が肌にあたり、”太陽がないのに”一日中明るく、空は雲ひとつない晴天が広がるここは”ダンジョン”。神秘だけを詰め込んだような、奇跡だらけの場所。

 そこに見合わない1人の悪。


「お前……何者だ?」


「しがない先生です」


 ◇◇◇◇◇


「人を……頼る」


 僕は女の人を担ぎながら、ブツブツとメメットさん言われた言葉を繰り返す。メメットさんは何も言わず、後ろを着いてきてくれているが、「少年」といきなり僕を呼び止める。


「これは予想外にゃ〜、まさか犯人が直々に来るにゃんて」


「鎌……?」


 1人の浴衣を着た女性が裏路地の角から鎌を引きづりながら出てくる。青髪の髪を上手く束ね、顔はホクロが多い。身長は154センチぐらい、それでいて今度は——生きている。手にはもう誰かを殺したように血が垂れている。


「逃がさないわよ、逃がさないわよ!」


 とち狂ったような彼女の言動。しかも彼女は——


 僕達を見てない


「少年、私の後ろに下がるにゃ」


 メメットさんの目が青く光だし、僕の前に立つ。


 ————また……人を頼る?


 僕の頭で誰かが囁いた。亡霊だ、僕の大っ嫌いな亡霊だ。頼りたくない、頼ってまた失いたくない。僕はそのために鍛えているんだ、頼るなんて——“強い奴”じゃない


「嫌だ」


「はにゃ?」


 僕は担いでいた女性を優しく床に下ろし、メメットさんより前に行く。


「にゃー! 止めとけ少年! あの女は少年よりも——」


 メメットさんは嘆息を吐き、思い出したように言葉を喋る。


「にゃは〜。もう少年の先生と約束しちゃったにゃ」


 僕はもう何も聞こえない。見えるのは相手だけ。死ぬ気でやるんだ、僕が死んだらこの人が死ぬと思え。


「死ね……死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね。どけ、どけどけどけどけぇぇぇぇぇええええええええええええ!」


 女性が鎌を持って突撃、鎌を横に振るにはここの路地は狭い。大振り縦振りを避け、神器をぶつける。僕は双眸を鎌に集中させ、女性との距離が5メートル圏内になった時、来る! と思い脚を軽くステップする。


「ぁぁぁぁぁあああああああっっっっ!」


「横の大振り———!?」


 裏路地の壁を鎌が引き裂き、僕の胴体が鎌を捉える。僕は神器(ミョニル)を床に落とし、前へ転がる。胴体を外れた鎌は壁に突き刺さり、隙だらけの女性のお腹を右拳で殴打する。

 ——おえっと唾が僕の顔にかかるが僕は気にせず、更に更にお腹を殴打するが——


 掴まれる右腕、引っ張られる右腕、後ろから迫る——鎌


「ミョニル!」


 左手にミョニルが出現し、女性が掴んでいる右腕にハンマーを、


「———ぎゃあああああああぁぁぁぁっっっ!?」


 女性の悲鳴、だけど迫り来る鎌。僕は神器をまた落とし、後ろに体を振り向く。


「ミョニル!」


 再度右腕出現したミョニルで鎌の刃へぶつけ、鎌の攻撃を防御するが——


 掴まれる僕の頭


「———かはっっっ!?」


 顔を地面に叩きつけられ、女性の左手が僕の頭から離れる。この女の人、やっぱり強い。多分、到達階層が違うんだ。鎌の一撃を食らっただけで、僕の神器も簡単に傷ついた。

 幾ら、戦いの経験値が僕の方が上手でも——


 覆らないモンスターからの【経験値】


「お前は唯の快楽殺人鬼。人を利用し、人を殺させるのが悦楽の阿呆だ」


「あひゃひゃひゃ、阿呆ってひでぇけどよく分かったな〜。あ〜なら殺さねぇとな〜」


 緑短髪に高身長、顔もよいはずなのだが人を殺したくて顔が醜くなっている。本当に胸糞が悪いな。


「だけどよ、この目でよーく見えるけど。今正に人が死ぬぜ? 小さくて、灰色の髪の毛のこいつ獣人か? あひゃひゃひゃ! くせぇ血を出しながら死ぬんだろうなっ!」


「……それは間違いだ。お前が思っているより、私の教え子は強いぞ」


「あひゃ?」


 ————僕は弱い


 知ってるんだ。1年前のトラウマからまだ成長できてない。体は成長したって、技術が成長したって、心は成長してない。


 だけど心”だけが”成長してないんだ。


神器(ミョニル)遅亭撃(えんていげき)』!」


 僕は成長している。トラウマを乗り越えるために、頑張ってきた。その僕の努力が、負けるはずがない。


「——-がはっっっっ!?」


 僕が殴ったお腹、右腕、鎌がまた攻撃されたように凹み、弾かれる。僕は女の人へ起き上がり、お腹に再度頭突きをする。


「あっ……殺す……ころ……す……殺す……ころ……すっ!」


「これが”1階層”しか潜ったことのない冒険者かにゃ? にゃははは、規格外にゃ」


 誰かは言った”彼”はだれだと。


 毎日、毎日、毎日、1階層にいて初心者の冒険者を幾度も助ける冒険者がいると。初心者からは毎日感謝され、名を名乗らずに去っていく1人の冒険者。

 1年前から語られるようになった彼の武勇伝は数しれず。


 彼はいつの間にかこう呼ばれるようになった


名も無き番人(ノーヒューマン)


「ああ! イラつくな! 本当に使えねぇ女だよ! 俺のためにもっと人を殺せよ! 俺にもっと貢献しろよッッッ!」


 土を強く踏み続け、怒りを露わにする男。トールは自分の生徒が倒したと感づき、誇らしげに胸を張る。


「もういいわ。お前を殺す。そういえばエルフは殺したことがなかった。あひゃひゃ楽しみだよ」


 男は腰にかけてあったナイフを手に取り、刃先を舐め舌から血がドバドバと出てくる。トールは本当に狂人だなと、首に付けていたネックレスを取る。


「1つ忠告しておこう。動かない方が身のためだぞ」


 トールは小声で『神器解放』言う。


「あひゃひゃひゃひゃ……こりゃあ、喧嘩売る相手を間違えたよ」


 トールの右手で握っていた小さいハンマーの飾りが大きくなり大きくなり大きくなる。直径2メートル、横幅3メートルの巨大なハンマーが出現する。


「どこかで隠居生活してる聞いたが、この目で見れるとはな!」


「知ってくれて光栄だよ。だけど、もう会うことはないね」


 昔、最強のパーティーと謳われたパーティーの1人。彼のハンマーは山をも砕き、大地を粉砕するね。

 付けられた二つ名は【戦鎚】


 彼のハンマーを見て生きていたモンスターはこの世で一体もいない。


「あひゃひゃひゃ! こりゃあボスに連絡だなぁ! 戦鎚はまだまだ現役だとよ!」


 トールはハンマを握っている腕に力を入れ”軽く振る”


 それだけで地面は直線上に削れ、グリンビアは飛ばされ、轟音が1階層に響き渡った。これが元A級冒険者だ。


 ◇◇◇◇◇


「ちょちょっと! あと1個の鎌が見つからないわ! はぁー! 団員を使うべきだったかしら!? 今頃人が死んで——」


「おい、何慌ててんだよアイ」


 迷宮都市を走り回り、トールから貰った情報の位置に不自然な人がいない。私が慌てふためいていると、バアルが私の肩を叩き心配する顔で見てきた。ってかなんで、バアルがいるのよ。


「バアル! 会えて嬉しいけど、不自然な人を見なかった! 目が虚ろで、生きてなさそうな人を!?」


 バアルにジェスチャーで伝えると、バアルはポケットの中から小さい袋を取りだし、申し訳そうに私に中身を見せる。


「それ本当か!? うわっ良かったわ〜。余りにも不自然だから思わず軽く殴たら……ほらこの通り、破片になちゃってさ。これアイのか、本当に良かったよ」


 私はバアルの話を聞き、安堵し、地面に座りそうになる。良かった、長い夜は終わった。


「私ならいいけど、不自然な人を突然殴るんじゃないわよ!? ばっかじゃないの!?」


「なんでお前ならいいんだよ」


 アイは説明がめんどくさくなり、まあいいわと軽くあしらう。


「えええぇ!? 全部、先生の策略だったんですか! 有り得ない! あの鬼教師!」


「おっ、マグニー! 久しぶりだな」


 東区域、この煌びやかな区域で集まり出す旧友と、教え子。事件は終わった。トールは犯人をギルドに受け渡し、100万ドラクマ片手にかぼちゃ亭へと着く。

 そこには見知った顔がいて、マグニが怒った顔で走ってくる。


「あははは、マグニ。怒っているか?」


「怒ってますよ! すごーーい、怒ってます!」


「悪かった。だけど、美味しくご飯を食べられるだろう?」


「出たその澄まし顔! 私は何も悪くないみたいな! いいですけど! いい経験になったからいいですけど!」


 マグニは今日の朝みたいに、ポコポコとトールを殴り続ける。そして最後に——


「先生! 今日は絶対に3色丼にしてくださいよ!」


 と言ってきた。トールは当たり前だと優しく優しく、マグニの頭を撫でる。


「おい、トール! 今日はお前の奢りって聞いて駆けつけたぞ! 早く食べようぜ!」


「そうにゃそうにゃ! 私、今日めっちゃ頑張ったから奢れにゃ!」


「そうよ! 早く食べましょ!」


「あははは、分かったよ」


 この迷宮都市(ゼイウス)には毎日、胸糞悪い事件が起こっている。そんな事件をお小遣い稼ぎと称して、解決している変人がいるらしい。

 だが、その変人は自分の行きつけの銭湯の奥さんを守り、沢山の人を守り、誰かから感謝されながら長い人生を生きていく。そんな幸せな人生はないと彼は微笑むことだろう。


「3色丼は美味しいか?」


「はい! すごい美味しいです!」


また変わらない日々が明日から訪れる。そして、世界にはそれを守っている人がいるんだ。


 ~完~

完結でございます。まだまだ私自身の力の無さに痛感しました。


まず表情や仕草の書き方が一辺倒すぎる。

まだ一人称を上手く使えてない

背景描写の説明がまだまだ

語彙力が足りない

場面のカットが適当


この5つが全くもって足りない。これをどう補っていくかが鍵かなと思ってます。まあそんなことより、どうだったでしょうか今回は!? 私的にはいいのか、悪いのか。後で3話通して見てみます。

戦闘描写はどうでした? 良かったですかね?

そして、安定の如くポイント、ブックマークがされない。まだ足りないか、まだ満足されないか。精進致します。

まあでも、マグニは今回成長できたかな……? みたいな回でした。マグニは強いけど、まだ自分の殻にこもってる。その殻に少しヒビが入ってしまう回を作りたかったので満足です。

これにて次は本当の10文字を目ざした長編に入ります。頑張ります。


最後に完結できて良かったあああああぁぁぁっと叫んどきます。ありがとうございました!



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