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第2話 〜殺人鬼の手がかり〜

「ふんっ————! っしゃあ!」


「マグニ、よくやった。200キロ達成だ」


 鉄の棒の左右に重い円型の鉄を均等に取り付け、合計で200キロの鉄の棒を持ち上げたマグニ。新記録達成だ。


「神器の効果もあるだろうが素晴らしい結果だ」


「ありがとうございます」


 マグニは息が乱れながら、草が生えている地面に倒れ込む。ここは私の家の裏手ある筋トレ場所。

 朝食を食べた後に筋肉を成長させ、これからダンジョンに潜らせる。1日1日、死ぬ気で筋肉を鍛える。これだけ体を酷使してもマグニの実力なら1階層は余裕だ。死ぬことは無い。


「その筋力は14階層を越えられる位の力だ。14階層より下に潜る冒険者には敵わないのを知っておくように」


 マグニのか細い「はぃ」を聞いたところで今日の訓練は終わりだ。現在の時間、8時30分。

 マグニはそろそろダンジョンに潜った方がいいな。


「ほら、マグニ。起き上がって、ダンジョンに行きなさい。成長する時間がなくなるぞ」


「……分かりましたぁ〜」


 体を脱力をしながら立ち上がり、気迫のない声色で私の前を通り過ぎ家の中に入っていく。私は地面に置いてある重しを見て、何故だか頭が痛くなる。1階層より下の階層には行ったことがない16歳の少年が、この重量を。種族が関係があるかもしれないが——


「今日の”野外授業”が楽しみになったよ」


 ◇◇◇◇◇


 マグニはダンジョンに行き、私も連続殺人鬼の調査へと出向く。

 ギルドや捜査中のクランに現在の進行状態を聞くのが手っ取り早いが、私はただ弱小教室を営んでいるだけだ。情報の入手が難しいが、私には友人がいる。


「南東区域に来てみたけと、いつ見ても壮観な眺めだ」


 南東区域の大通りから外れた所にある赤い城。石材で作られた城、中央にそびえ立つ細長い柱。その頂上には円錐の建物。

 珍奇な構造だが、インパクト重視といったところだろう。

 団員50名でこの敷地なのだから、”アイ”のクランの財力が伺える。


「こんにちは」


「こ、こんにちは! トール様ですよね、どうぞお入り下さい」


 顔馴染みと化した門番に顔パスで通してもらう。私はアイが居るであろう円錐の建物を見上げる。


「正規ルートでは面倒だ」


私は大きい窓に目掛けて”飛ぶ”。


「ふんふふーん、仕事が終わったーーー! 久しぶりのちゃんとした休憩が出来るわ! ニニスの怒った顔を見なくてす———」


「邪魔するぞ」


 窓辺の少しだけ空いたスペースに着地し、窓を思い切り開けその音でアイが「ぎぃぃぃゃゃああああっっっっ————!?」と私に神器を使って攻撃してくるとは思わなかった。


「本当にトールはいつもいつもいつも! 私が! 油断している時に驚かすんだから!」


「あははははは、そんな驚くことではないだろう。ダンジョンの中の方が驚きに満ちているはずだが?」


「ダンジョンは気を張ってるけど、ここは私”の”家よ? 油断しているに決まってるじゃない!」


 丸焦げになった私に叱咤するアイ。燃えるような赤髪の短髪に稲妻を思い出す黄色い目。そして、種族を荒らす褐色の肌。毎回毎回そんな美しい彼女に怒られるが、今回の怒りの炎は大きそうだ。


「まあ落ち着け、私は怒られに来た訳では無い」


「怒られに来たわけじゃないって……貴方ねぇ——!?」


「”バアル”に昨日会ってな。最近、アイが可愛らしくなったと言っていたぞ」


「うえっ? あ、ふ、どぅーーー! …………ほんと?」


「嘘だ」


「【ペレ 貴殿の燃え盛る生命力を宝石に宿し なしに——】」


 アイが私の軽い嘘で遂に堪忍袋の緒が切れ、究極魔法まで撃とうとした時には流石の私でも死にかけた。

 彼女の久しぶりの熱き炎を浴び、1時間経ってやっとこさ連続殺人鬼の話が出来た。


「巷で有名な連続殺人鬼でしょ? こっちにも捜査依頼が来たけど断っちゃった。私達のクランって大人数でもないでしょ?」


 ボタン1つでこの部屋の真ん中に地面から出現した、長机とソファー。私とアイは向き合いながら座り、アイの団員がコーヒーを持ってきてくれた。


「断ったか。ならばギルドから貰った資料とかはないのか?」


「あるっちゃあるけど……トール、まさか捕まえに行くの?」


「小遣い稼ぎにな」


「——貴方、まさかマグニくんには戦わせないわよね?」


 私は間を置き、ゴホンっと咳払いをする。


「それでその資料は?」


「鬼だわ鬼! この鬼教師! マグニくんが敵う相手じゃないわよ!?」


 アイはソファーから立ち上がり、私に人差し指を刺しながら憤怒する。


「じゃあ聞くが、私が見誤ると?」


「……有り得ないけど! それでもよ! 死ぬ可能性があるわよ!?」


 私を怒鳴りつけ、懸念をぶつけ挙句の果てにはアイの神器(ペレ)を使って殴りかかろうとしてくる。

 私は優しい声で落ち着けといい、アイは顔に手を当てソファーに座り込む。


「マグニくんを1人でダンジョンに行かせた時もこうやって怒ったっけ?」


「ああ、あったなそんなこと。あれはいつ頃だろうか」


「馬鹿エルフ……丁度、1年前よ。それであの子、トラウマを抱えて1階層から先の階層行けてないんでしょ? それでいいの、先生としては」


 卓上の上にあるマグカップを手に取り、コーヒーを啜る。私は目に映るコーヒーの黒色が私の心を写しているようにこちらを見てくる。

 先生としての失態、今でも夢に出てくる。マグニが泣いて帰ってきた時を。私は目を深く閉じて、弱々しく開ける。


「だからだ。トラウマを覆す力を自覚したら、自ずと行き先が光り出す。これはその1つのきっかけだ」


「……ふーん。それをアホバアルにも言ってあげれば?」


「あいつは力を”持ち”すぎている。だから後悔が大きい。あいつの悔恨を取り除くには何か大きなきっかけが必要だ」


 アイは黒目を落とし、肩を落とす。好きな”男”の力になれず、彼女もまた何かに取り憑かれている。


「バアルのことはどうでもいい。それより頼む……資料をくれないか?」


「……分かったわ。———けど」


 ◇◇◇◇◇


『1番有力な犯人は遊楽街の遊男のグリンビアよ。死んだ女性の人達全員がこいつと接点があるわ。もちろん、遊楽外だから水商売関係だけど』


 1枚の写真を片手に世界で1番大きい遊楽外。東の遊楽外(サン・シティ)へと来た。迷宮都市はダンジョンを起点とし東西南北の8方位に大きな道があり、それぞれの区画に見合ったものがある。東区域はすべてが遊楽街がある。

 その区域にある、とある店へと入る。外見ではただ汚い居酒屋、内装も汚く人なんていない。


「メメット何をしているんだ?」


「あら、バレてるにゃ」


 私はカウンターに座り、目の前からひょこっと悪い笑顔で出てくる猫耳族の女性。彼女は後ろの棚から、値段が高いお酒をグラスに入れ私に差し出す。


「今日はどんな情報がほしいにゃん?」


 黒のショートカットの髪に、黒の耳。この店に合わないメイド服を来て、スカートから黒の尻尾が動く彼女は遊楽外1の情報屋。私達の専属の情報屋だ。


「この男を知ってるか?」


 私はアイから貰った遊男が10人ほど並んでいる写真の中央にいる男を指を指しメメットに見せる。メメットは難しい顔をし、尻尾の先っぽを使って男に顔をトントンと叩く。


「その依頼の達成金は100万ドラクマじゃにゃい?」


 目の奥から滲み出るようなもっと金を寄越せという、視線。私はお酒をグビっとのみ——


「もっと美味しい酒を」


「にゃひひひひ! 本当にトールはいいお客だにゃ〜」


 メメットは店の奥へと入り明らかに高そうなお酒の瓶とメモを持って私の前へと来る。

 お酒を新しいグラスに入れながらメメットは流暢に喋る。


「その男、顧客をメロメロにして女から金をぶんどってるカリスマ男にゃ。だから、恨みを買うこともあるけど別に悪い奴ではにゃいと思うよ」


 私の手の近くに酒が入ったグラスを置く。メメットの言葉を信じるならグリンビアが犯人という線はなくなった。しかし、恨みを買うことが多いか。

 私はメメットにどんな恨みかと聞くと、『私怨や恋怨など様々な怨を買うことがある』そうだ。顧客の旦那や、他の女性への嫉妬、そっちの方が犯人の幅が多くなる。厄介だな。


「私の見立てだと今回の事件は未解決で終わるにゃ」


「なぜそう思う?」


「グリンビアは足が着いているにゃ。なのにグリンビアが、事件に関与している可能性が高い。他に犯人がいるはずなのに必ずグリンビアが疑われる証拠を現場に残すにゃ」


「……犯人はグンリビアを陥れようとしているか」


「にゃはは〜、勘が鋭いにゃー。まあそこからの捜査が進展してにゃいんだけど。犯人の逃走術が妙に上手すぎるんだにゃ〜」


 私はお酒を口に運び、飲み込む。舌が踊り出すようなフルーティーな味と香り、軽い口当たりに丁度いい度数。

 美味いと言わざる負えなく、メメットの不敵な笑みを見て、グラスを差し出す。


「まだあるんだろう? 情報が」


「にゃひひ〜、せいかーい。でも、次のお酒はもっと高いかも?」


「ははは、喜んで飲もう。ああそれと——」


 ◇◇◇◇◇


『彼を陥れようとしている犯人はその写真の中にいるにゃ。もちろん、私の神器にかけて誓うにゃ』


 この10人程度の遊男の中に居るのか。今の時間は午後3時、マグニとの待ち合わせは午後6時。

 後3時間で犯人の目星をつけないといけない。先程から遊女に私の美貌からか声をかけられ、男の写真を見せるが全員がグリンビア”しか”知らないと言う。この区域の数多ある店の中で有名所の人物しか知られてないか。


「やはり一筋縄ではいかないか。一目でもいいから犯人を目撃出来れば。あとは———」


 ————その時


 1人の女性が私の横を素通りする。この人通りが多い遊楽街ならば普通のこと。だが、何かきな臭い。誰も気づいてないが、”血”の匂いがする。女性には筋肉はない、”戦闘系”では無い。ならば”別件”か?


「そういえばまだ死体現場を見ていなかったな。ここから近いのはあそこか」


 私は横を通った女性を無視し、メモを頼りに死体が見つかった殺人現場へと向かう。第1殺人現場は遊楽街の裏道、人が寄り付かず、寄り付いたら悪い者に強姦をされるのが日常茶飯事。

 殺人、窃盗が日夜行われるている。


「ここか」


 だが、最近はギルドやクランが警備を強めある程度は犯罪件数が少なくなった。路頭に迷った悪者を闇クランが引き込み何かをやろうとしている……という噂があるが、この事件には関係はないだろうか?


「周りには人がいない、当たり前か」


 ただの薄暗い裏路地、血もなくここの一帯だけが特段”綺麗”。


「ここで殺られたのは間違いない。匂いも、視覚も今のままでは足りない」


 私は首にかけていたネックレス、その飾りに見える”ハンマー型の神器を触る”。


神器(ミョルニル)潜在能力解放(リミットオーバー)』」


 ————神器


 神器とは太古の昔、神が人類に与えた権能。初代の9人が神から神器を授かり、初代の9人が神器を人々に継承していった。

 神器は初代の9人の能力ベースに沢山の人に継承されていき、継承された人独自の能力を生み出し、それをまた教え子に継承していく。初代の9人が継承した神器、その神器を持っている者は今や数しれず。

 そして——


 神器の成長にはダンジョンが不可欠。神器でモンスターを倒す度、神器が強くなり己自身も強くなっていき、ダンジョンに潜る者を冒険者という。


「やはり……あの女性か」


 私は空気を軽く吸い込み、今までより数十倍鋭くなった嗅覚を使い血の匂いを確認する。この血の匂い、あの女から嗅いだものと同じだ。


「あの女性が犯人だとしても、匂いが足りない。30人分殺した匂いではない。じゃあ、あの女性は何者なのだ」


 ◇◇◇◇◇


「あひゃひゃひゃ! グリンビア……お前はもう終わりだ」


 壁一面に貼られたグリンビアの顔写真。その写真を舐め、体を擦り付け、ナイフで切り裂く男。

 その男は———“5人”いた。


書くの忘れていたんですが、この小説は


【ダンジョンブレーカー】


【アイ・クリスタのブレイクタイム】


の順番に読んで頂くと2倍楽しめる作品ですので、是非読んでください。今回この小説には名前しか出てこないバアルが、アイ・クリスタのブレイクタイムでは出てきます。

まあバアルさんは、後の長編の主人公なのであまり触れません。長編……そうなんです。こんな言葉足らずな小説なのですが、次回作の長編には事細かく説明します。神器の説明も3作の中で初めてしましたし、段々と謎が解明されていきますね。


まあそんなことはどうでもいい


どうだったでしょうか今回は!? 私的には満足しました。メメットとか出す気なかったのに書いてたら自然と出てました。また次回作がややこしくなる……。

次の話は戦闘回です。戦闘バカバカやる予定です。

タイトル回収もする予定です。


はい、語り尽くしたので次の投稿は【日曜日かも?】

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