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第5話 戦利品の多い勝利となった。

 戦利品の多い勝利となった。外大臣と二の妻が貯め込んだ財には異国のものも多く、弟に着せた罪の一端を誰が握っていたかを明るみにさせた。

 帰り道の途中ですら空いた外大臣の椅子を争って、挨拶にくる貴族の多かったことと言ったら。


 俺は、父に愛されず、殺すこともできぬ人間ではあったが、国王ではあるらしい。

 道々、立ち寄る地ではどこも歓待を申し出られたが、それよりも困っていることはないかと尋ねて回った。必要なことがあれば、城に戻り次第、良きように手配すると。


 人々は純朴で、そして物静かであった。

 まるで一の妻のようであると――もはや一人だけになった妻のことを思った。


 愛されたことがないゆえに、俺は愛を知らない。

 よって、俺のこの思いは、愛ではないかもしれない。あの強い眼差しで俺を見据えていてほしいという、この思いは。


 だが、あれは俺の、俺だけの妻だ。

 あれが、他の者をあのような目で見ることは決してあるまい。


 城に戻った俺を、妻は恭しく出迎えるだろう。

 俺はあの貧しい髪をかき上げて、そして皮肉やら悪口やらを叩く。

 妻は怒り、嫌な顔をする。普段の大人しい人形じみた様子が嘘のように、憎々しげに俺を見るはずだ。俺は笑いながら謝り、そうして持ち帰った財の中から、いちばん良いものを最初に妻に選ばせてやる。あの女がそんなことで気をよくする訳がないのは分かっているが、断ることもないはずだ。


 俺は。

 ああ、俺は――




 戦場から戻り、二人きりの閨の夜。

 妻の差し出した盃に毒が入っているなどと、誰が思うだろうか。




 灼けるような喉の熱さを感じ、俺は血の塊を吐き出した。

 妻は冷ややかな顔で俺を見下ろし、そしてそっと自分の腹をなぜる。言われて初めて気づくような、少しばかり膨らみかけただけの腹を。


「あなた様の思いは、この子が継ぎましょう。私には、二の妃のような器用な真似はできませぬので、正真正銘あなた様の子です」


 俺の思いの何を、子が継ぐと言うのだろう。その冷たい眼差しの向かう先にいるという子が、いったい何を。

 問いただそうと開いた唇は、しかし、震える以外に役には立たず、何の言葉も紡ぐことはできなかった。


 もう開かない瞼の裏には、凍ったような表情で己が腹を睨み付ける女の顔だけが残っていた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 本当に愛されなかったのだろうか。 愛だと認められなかっただけではないだろうか。 望んだものは決して手に入らず、最後まで流されて、流されて。激流に身を任せることしかできなかった彼がどこか痛ま…
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