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リヴェンジャーズ ~奪われし者たちの復讐歌~  作者: 我楽娯兵
初めての復讐
7/26

悪巧み

ガソリンスタンドからそう離れていないレストランで、僕とジェフリーは今後の相談をしながら昼食をとっていた。

カフェインとニコチンで頭がやられているジェフリーはコーヒーと噛み煙草だけで良いようだったが、僕はそんな異常体質ではない。

ハンバーガーを五つ、ミートボールパスタ三皿に追加でチーズステーキを六個頼んで食べていた。


「いくら連邦が食費等々持つたって食い過ぎだ」


「腹が減って仕方ないんだよ。アンタは食わないのか?」


「生憎とお前と違って胃が小さいんでね」


「そう」


チーズステーキに被りつきながら僕はジェフリーに今後の行動を訊いた。


「どういう風にヒーローを殺すんだ?」


「殺さなくてもいい、本筋はOSE社が足腰立たなくする事、そしてヒーローを二度と表社会に出さない事だ」


「そうだったとしても、やり方が僕には分からない」


「そうだな。つってもなお前は正直なとこ、有事の事態がきた時の保険のようなところだ」


「保険?」


「ヒーローに襲われて殺されそうになった時とかにお前に応戦してもらう。でもまあ、あの変身の条件が分からない限りお前はお荷物なのは変わらん」


コーヒーを一啜りしてバッサリと僕を切り捨てた。

ズバズバと遠慮なしにいってくるジェフリーに臍を曲げそうになるが実際のところその通りだ。

僕の変身の条件は未だに分からず、変身してみろと唆されるままに気合で変身してみようと気張ってみるもオナラが出るばかりで僕の体はどうともならなかった。

その時のジェフリーの冷たい顔はかなりのトラウマだ。


「使えない保険だがしっかり働いてくれよ。まごまごはしてられんからな」


「予定は?」


「知り合いの記者に情報提供をしてもらってる。ヒーロー関係の記者だ、OSE社の中にも出入りができる」


「了解だ」


僕はチーズステーキを平らげ、指に付いたケチャップをしゃぶっているとジェフリーは思い出しようにテーブルにあるものを置いて渡してくる。L字の道具に小さな箱、それらがケーブルで繋がったものだ。

何かも分からないことはないが、見るからに(ガン)だろう。

僕はそれを手に取って握り、その感触に違和感を覚えながら訊いた。


「護身用のテーザーガンだ」


「人には効くだろうが、ヒーローには効くのか?」


「そいつは俺が改造した逸品だ。その小型バッテリーで電力を底上げしている。――自分に撃つなよ。電圧が高すぎて像も殺せる威力になってる」


僕は思わずそれから手を放して落っことしてしまう。


「なんてもん作るんだアンタは!」


「ヒーロー相手だぞ。それでも足りないくらいだ」


グイっとコーヒーを飲み干したジェフリーの脇下には恐らくこんなモノよりももっと物騒な、拳銃が収められているのが見えた。

確かにこの改造テ―ザーでも足りないくらいだ。むしろ名に等しい。

僕への無言の圧力である、さっさと変身しろという。

出来るものならそうしたいが残念ながらそれができないから僕も困っている次第だ。


「いつまで食ってんだ? 早く行くぞ、予定の時間はもうすぐだ」


「分かったよ。ちょっと待って」


口の中に残りを全部詰め込んで僕とジェフリーは席を立ち、会計を済ませて店を出た。

可愛らしいアイスクリームトラックでオーロヴィル・シティの2番街(セカンドアベニュー)の週刊誌社ビルへと向かい、目的とする記者へアポイントを取ろうと受付を済ませる。

ジェフリーはかなりの頻度でここに来ているのか、受付もすぐに目的の記者へ連絡を取ってくれ四階の応接間兼カフェエリアへと通された。

開放的で明るいインテリアは報道機関のビルと言うより、家具販売のショールームのような感覚だ。

前時代的なデスクに書類が山積みになった場所で記者は記事を書いているものだとばかり考えているが、時代というモノは進むもの、こうした場所ではデジタル化は進み、紙メディアは死んだ媒体(デット・メディア)となり電子媒体が現在の主流だ。

こんな事態で無ければここは僕の仕事仇であり、ネットアフィリエイトを収入源としていた僕には居心地の悪い場所だった。


「ごめんなさい。ジェフリー、会議で遅くなっわ」


すらっとした立ち姿で大柄の女性が僕たちが据わるテーブルに来た。

マリファナの形をしたイヤリングを付けているのは何かの比喩だろうか。


「特ダネだぞ。早くしろ」


「はいはい、そちらの方は?」


「俺の保険」


そう答えた様子を見て怪し気に目元を顰めたが、彼女は手を出して握手を求めてくる。


「ジャック・アネラだ。よろしく」


「リビアリングの記者でメリー・ジェーンよ。よろしくね」


大麻の精霊(メリー・ジェーン)? ひどいあだ名だね」


僕は握手を返して、その名前の冗談じみた意味に苦笑いで返すがメリーは真顔で返す。


「本名よ。よく笑われる」


「……ごめん」


「いいのよ。この名前も結構気に入ってるし覚えやすいでしょ?」


「確かにね」


席に着いたメリーはワクワクした様子で、ジェフリーに向き合った。

その目の輝きは子供のように光って、好奇心に突き動かされているといった様子だ。


「それで! 特ダネって」


「まだ病院テロに参上したヒーローの名前伏せられているだろ。教えてやってもいいぜ、状況も含めて」


「本当に、どこからそんな情報仕入れてくるのかしら。本業の私たちを差し置いて……ッ!」


弾んだ声で答えるメリーは物理出力可能なボイスレコーダを取り出して録音を始めた。


「それで! 中央病院には誰が来たの」


「最初に到着したのはアーム・クランチだ。その後にお前も知っていると思うがスカイ・ライドとシヴァルドが来た」


「最初に来たのは。アーム・クランチだったのね。じゃあ、スカイ・ライドが救出していたのが――」


「ああ、アーム・クランチだ」


「やっぱり! かなり負傷していたようだけど、今回のテロリストはかなりの武装をしてたようね」


ジェフリーは悪い顔で、記録メモリーをメリーに差し出してた。

小さな声で言う顔はいつも、僕に初めて会った時のあの悪だくみを仕組む顔だった。


「こいつはまだ世間に出すなよ。――スーパーヴィランがいたらどうする?」


「……それ冗談じゃないわよね」


「勿論だ」


メリーもまたひどく悪い顔をして不敵に笑いだす。

そうだろう。そうだろうとも。

世間、特にこの街では空前のヒーローブームで彼らが活躍できるネタがあるのならそれだけで大きなニューズになりえる。メリーにとっては大変なニュースなはずだ。

僕だって彼女の立場なら大はしゃぎするだろうが、残念ながらそのスーパーヴィランに祭り上げられたのはこの僕なのだからその心境は如何ともしがたい。


「どのタイミングで公表する。他の所には売ってないでしょうね」


「OSE社が情報規制をしてる特大のネタだ。他の所がこれを手に入れることはまず無理だ」


「ふっ、ふふふっ。いいわ、買うわこのネタ」


メモリーを取ろうと満面の笑みの彼女に、勿体付けてそれを取り上げたのはジェフリー。

二っと頬を釣り上げて邪悪な顔で笑い、ようやっく僕たち、『リヴェンジャーズ』にとって大事な話を、要件を話し出した。


「今回はちょっとしたお使いを頼まれろ」


「お使いって……子供じゃないんだから」


「お使いみたいなもんだ。お子様の楽しい楽しいお使いだ。――メリー、お前ニューヒーローオーディションの新メンバーの取材に行くのか?」


「当然よ。チェンバーは数いれどヒーローになれる人材は限られているからね」


腕を組んで呆れたように言うメリーの対応に満足げに懐からもう一つの、重要なものを手渡してジェフリーは彼女に命令のように言い放つ。


「こいつをそのニューヒーローのどこでもいい、衣服に着けるも、荷物に忍ばせるもいい。とにかくこれを大き(ビック)なニューヒーローに付けろ」


米粒ほどのサイズの黒い粒が入った小さい容器を渡す。あれはなんだろうか。


「ちょっと犯罪に加担しろっての?」


「そうか、じゃあこいつは売れないな」


所在なさげにメモリーを手で弄んで、もったいないと白々しく顔で示したジェフリー。

その様子に悔しげに睨むメリーの様子に僕はよく理解できなかった。

僕はこれの正体を聞いた。


「これなんだ?」


「盗聴器、最新式の超小型タイプだ」


「私に犯罪の片棒を背負わせようってことよ、毎回こんな調子よ。パートナーなら何とかしてよジャック」


「こいつの異常さは、常軌を逸しているから無理だろうね」


「子犬。黙ってろ」


「子犬って呼ぶな。イカれめ」


受け言葉に買い言葉のぶつけ合いだ。

しかしながら悔しいかな、ジェフリーがいないと僕は何もできないし何をしたらいいのかも分からない。

こういった事にて慣れている彼は何かしらの経験を積んでいる事は理解できた。

メリーは盗聴器の容器を取ってメモリーを渡す様に手を出してくる。


「分かったわ。やるわ」


「交渉成立だ。よろしく頼むぜ」


「言っておくけど、これを仕込めなくても文句は言わない事よ。本業の事もあるし、接触することも本来は難しい事なんだから」


「その言い方だと直接取材か」


「当然。うちを舐めないで」


「様になってやがんな。ナニを取って正解だな」


「ハ?」


ジェフリーがさらっと大きな爆弾を投げていった。

ナニを取った? ナニ、ナニ、ナニって、何?。

頭に疑問符が浮かんで、僕は阿保面を晒していることを見て察したのか。ジェフリーはメリーを煽るように彼女にも聞こえるように言った。


「こいつはな。トランスジェンダーだ、俺達の股にぶら下がってるものを取っちまった。れっきとした男だよ」


「うっそだろ!」


メリーの姿を頭から足の先までくまなく見るが紛れもない女だ。

確かに背は高いが、線も細くて胸もある。指先の細さなんて女性そのもので顔も弄っている様子はなかった。しかしメリーは可愛らしく膨れて見せていう。


「それは突かない約束でしょ。もう、男じゃなくて、漢女(おんな)よ」


「人生悲しいな。子犬ちゃん(ジャック)はお前をマジの女と思ってたみたいで面白かった」


「人の反応で遊ぶなよ」


僕はもう曲がっている臍を更に曲げてそっぽを向いた。

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